孤独な少女は優しさに堕ちていく。
「そろそろお腹が空いたし、お昼ご飯にしようか」

「そうですね」

千景さんに連れられてやって来たのはかわいらしい装飾が施されたレストラン。

空いている席に向かい合って座る。

「何にする?」

千景さんがメニューを取って渡してくれた。

どれも美味しそうだけど特にハンバーグとトマトパスタでものすごく悩む。

「じゃあ、俺ハンバーグにしようかな」

なんとなく、千景さんと被らない方がいいと思ってトマトパスタにすることにした。

「トマトパスタにします」

店員さんを呼んでハンバーグとトマトパスタを頼む。

届けられたハンバーグとトマトパスタはすごく美味しそうだ。

「乙葉ちゃん、ハンバーグとトマトパスタで悩んでたよね?ハンバーグ、食べてみる?」

なんで分かるんだろう。

エスパーか何かだろうか。

「いいんですか!?じゃあ、千景さんもトマトパスタ食べますか?」

食べたいと思っていたハンバーグを千景さんから貰えることになった。

「はい、口開けて」

目の前には切り分けられてフォークに刺されたハンバーグがある。

よくわからないまま、言われたとおりに口を開けるとハンバーグが入ってきた。

「おいしい?」

「…おいしい、です」

今…あーんされた?

あれって恋人同士がやるものじゃないの?

頭の中は大混乱。

千景さんは素知らぬ顔で私にあーんしたフォークでハンバーグを食べている。

千景さんにとっては当たり前のことなんだろうと、無理やり自分を納得させた。

自分もトマトパスタを食べ始める。

「あっ!」

千景さんにあげるのを忘れていた。

千景さんにとってあーんが当たり前なら私もやった方がいいのだろう。

「千景さん、口、開けてください!」

「え?」

ポカンと開いた口にフォークに巻いたパスタを押し込む。

「んっ、」

突然のことに驚いた様子の千景さんはモゴモゴと口を動かしている。

なんでだろう、私よりきっと、ずっと年上で大人っぽい千景さんなのに、かわいいと思ってしまう。

やっとパスタを飲み込んだ千景さんの耳が、ほんのり赤いのは気のせいだろうか。

「…突然はやばいって」

「…ごめんなさい」

ぼそりと言った千景さんのつぶやきを私の耳は拾ってしまった。

「あっ、ううん、乙葉ちゃんは悪くないよ。俺の心の準備ができてなかっただけ」

今日の千景さんはよくわからない。

「気にしなくていいよ」

そう言って再び千景さんはハンバーグを食べ始めた。

千景さんと食べたトマトパスタは今までで一番おいしいかった。

“バンッ”

どこかから何かを強く叩いたような音がした。

『なにやってんだよ!ぐずぐずすんな!』

レストランの端で金髪のお兄さんが店員さんを怒鳴りつけていた。

さっきのは机を叩いた音だったようだ。

無意識にビクリと肩が震える。

それを見た見た千景さんは、驚いたような、それでいて悲しそうな顔をした。

「もう、出ようか」

「っ、はい」

警備員さんがやってきて金髪のお兄さんをどこかへ連れて行ったようだ。
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