孤独な少女は優しさに堕ちていく。
再び、一番最初の大きな水槽の前にもどる。

「少し、お手洗いに行ってもいいかな?」

「あ、どうぞ」

千景さんはさっき歩いてきたばかりの方向へ歩いていった。

「ねぇねぇ、おねぇさんって大学生?俺らと遊ばない?」

千景さんがいなくなってから少しして、いかにもチャラそうな男の人の集団に声をかけられた。

「いや、あの、遠慮しておきます…」

「いやいや。おねぇさん、ぼっちでしょ。ぼっちで水族館ってむなしくない?ね?俺らと行こう」

大学生と勘違いされたことは、少しし嬉しいけど、知らない男の人達に囲まれるのは正直怖い。

「その、知り合い?と一緒に来ているので」

千景さんと私の関係はなんだろう。

友達、ではないだろう。

恋人も論外だ。

でも、知り合いにしては距離が近すぎる。

友達以上恋人未満、なんて言葉が浮かんできて、慌てて消し去った。

「知り合いでも何でも良いから、とにかく俺らと来いよ」

男の一人が私の腕を掴んだ。

「いや、です」

反抗するものの相手は男でこちらは女。

敵うわけがない。

「ち、かげさんっ、」

「あ″?さっさと歩けよ」

男の人達がどんどん乱暴になっていく。

「乙葉。待った?ごめんね、待たせて」

「ちかげ、さん」

後ろから聞こえてきた声は、私が待ち望んでいた声だった。

「俺の乙葉に何しようとしてんの?」

「え、いや、何もしてません、よ?」

男の人達はしどろもどろだ。

「さっさとどっか行けよ。二度と帰ってくんな」

普段の千景さんから考えられないほど低くて鋭利な声だった。

「乙葉ちゃん、大丈夫だった?いや、大丈夫なわけないか」

もう私のことは“乙葉”と呼んでくれないんだな、と的外れなことを思った。

「だ、いじょうぶ、です」

「そっか。勝手に呼び捨てにしちゃってごめんね」

私の気持ちは全て見透かしていそうな瞳に、吸い込まれそうになった。

「気にしないでください。むしろずっと呼び捨てにして欲しいぐらいです」

ポロリと本音が漏れてしまった。

「……ごめんね、このままでもいい?」

正直驚いた。

なんだかんだ言って千景さんが私に好意を持ってくれていると思っていたから。

もちろん、恋愛的な意味ではない。

頼めば呼び捨てにしてくれると思っていた。

「はい。じゃあこのままでお願いします」

だけど、私は何も思っていないふりをして平然と返事をする。
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