孤独な少女は優しさに堕ちていく。
クレープを食べ終わった私に合わせて千景さんが立ち上がった。

「…帰ろうか。歩けそう?」

「歩けます」

多少は痛いとはいえ、絆創膏のおかげで擦れなくなったので随分ましになった。

電車は、来たときと違って椅子に座れるほど空いていた。

電車に乗っていてもなお、離されることのない手に戸惑う。

でも、心地よい電車の揺れで私はいつの間にか眠りについていた。


「起きて、乙葉ちゃん。もうすぐ着くよ」

低く、優しい声とともに軽く揺れを感じて私は目を開けた。

私の頭は千景さんの肩に乗っている。

「っ!すいません!重かったですよね」

「そこまでやわじゃないよ。ほら、もう着いた。降りよう」

慌てで電車から降りる。

改札を抜けて、駅の前の小さな広場に出た。

「今日は、ありがとうございました。このカーディガン、洗ってから返しますね」

「ううん、このまま返してくれればいいよ」

半ば無理やり千景さんが私からカーディガンを受け取った。

「こちらこそ、ありがとう。楽しかったよ。」

「はい。私も楽しかったです。よかったらまたどこか行きましょう!」

千景さんに楽しかったと言って貰えたのは単純に嬉しかった。

「また機会があったらね」

次はない、とでも言うような千景さんの言葉に少しの違和感を覚えた。

「あ、そうだ。これ、貰ってくれる?」

千景さんの手のひらに乗っていたのは、あの日-千景さんと私が初めて出会った日、に見つけたさくら色の貝殻だった。

端っこに小さな穴が開けられている。

「え、でも、これ千景さんの…」

「なんかさ、やっぱり乙葉ちゃんが持っていた方がいい気がしたから」

千景さんは眉を下げて微笑んでいる。

「ね?」

千景さんに握っていた手のひらを開かれて、さくら色の貝殻が乗せられる。

「あり、がとうございます」

「うん。じゃあ、バイバイ」

千景さんは私を置いて夕焼けの中に消えていった。
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