孤独な少女は優しさに堕ちていく。
学校に向かう電車の中で、私が考えるのはさっき別れたばかりの男性のこと。

ふんわりとした茶髪に程よく高い鼻。

バランスよく並んだ顔のパーツにモデルのような足の長さ。

品良く細められた目と口から作り出される、柔らかな微笑み。

全てが、私の印象に残りすぎている。

どこか不思議な雰囲気をまとった人だった。

今まで、あの浜辺で会ったことはないから今日初めて来たのだろうか。

また明日会うことはできるだろうか。



「…ん、…ちゃん、おとちゃん!」

考えにふけっていたら親友の梨奈が電車に乗ってきたのに気がつかなかったようだ。

梨奈が少しだけムスッとした顔をして、こちらを見ていた。

中学が同じで、高校も偶然一緒だった。

小さくて、見た目も行動も小動物のような梨奈だが、これでも女の子だけで構成される暴走族のレディースの総長をやっていると中学のときに聞いた。

だから本気で怒らせると超怖い。

でも怒らせなければ、小動物系女子であることにかわりはない。

「梨菜は今日もかわいいね。」

「おだてても許してあげないもん!」

そんなことも言いながらも口元は緩んでいて、機嫌が直っていることがまるわかりだ。

でも、怒っているふりは続けるらしい。

「で、私を忘れちゃうほどおとちゃんは何考えてたわけ?」

「忘れては、ないよ。気づかなかっただけで。」

「そーじゃなくて、何考えてたか聞きたいの!!」

「いや…、まぁね、色々。」

私が名前すら知らない人に興味を持っていると知ったら、優しい梨奈は私の身に危険なことが起こらないか、心配してくれてしまうだろうから言わないでおく。

「その色々が聞きたいの!!」

でも梨奈は私を逃がしてくれないらしい。

「今日英単語テストあるなぁ、とか」

どう見ても嘘の答えにやっぱり梨奈も不満そうだ。

「そういう事じゃなくて、……英単語テスト!?え?聞いてないよ!!勉強してない!」

苦し紛れの言い訳だったけど、話題を変えることに成功したようだ。

やっと梨奈も怒っているふりをやめたようだ。

「範囲、どこだっけ?…おとちゃん知ってる?」

「教科書103ページから120ページまでの単語じゃなかった?」

「え、待って、教科書忘れた…。お願いします、乙葉さま、教科書を見せてください。」

単語テストの存在だけで無く、教科書まで忘れるなんて、私に怒れないくらい梨奈も忘れてること多いじゃん、と思ったけど、さっきのことを掘り返されたら困るので黙っておいた。

その代わりに、

「いいよ。でも、学校でね。あと一駅で付くから。」

と、快い返事を返してあげた。

「ありがとぉー」

少しだけ、上目遣いでこちらを見る梨奈は相変わらず可愛かった。




結局、1時間目が英語だったので、ほとんど勉強出来ないままは単語テストを受けていた。



単語テストでひと悶着あったものの、それ以外は至っていつも通り、眠気と戦いながら授業を受けた。
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