宿り木カフェ
「こういうのをね、友達には話せないの」
『うん』
「最初はあんなに何でも話してって言ってたのに、しばらくするとまだ落ち込んでるの、って面倒そうなのがわかりやすく伝わってきて」
『私の時もそうだったよ』
「やっぱり?」
『入院先に会社の人事部の担当者が、ところでいつ復帰ですか?って聞きに来たよ、体重が落ちて点滴でなんとか生きてた私を見ながらね』
「殴ってやりたい、そいつ」
『ありがとう』
はは、という笑い声に、どれだけの苦しみをヒロさんは一人で乗り越えて来たのだろうと思った。
「きっと会社に戻っても、またお局、私の悪口を言いふらしていそう」
『うん、その可能性は高いね』
「どうしたらいいかなぁ」
『どうもしなくて良いよ。
あぁいう人間とは関わるべきじゃない。
ひたすら接触は最小限に。
せっかく部署も変わるんだし。
嫌な話が聞こえてきたら、可哀想な人だなって心底哀れめばいい』
「そっかぁ、それしかないのかぁ」
結局私がまた我慢し、かわす日々が始まる。
でも今の会社は私の学歴にしては給料は悪くない。
これがせめて短大でも出られていたら違ったのだろうが、うちの財政状況では諦めざるをえなかった。
ふと入院するときのことを思い出した。
「そうそう、入院した時、身元保証人書けって言われたの。
家族も親戚も誰も居ないって言ったら、看護師さんがかけあってくれたみたいで無しで済んだよ。
今度入院する時も言われるのかな、ダメだと入院できないのかな」
『あぁ、昔よりは厳しくなくなったなんていうけど、病院も金を取りっぱぐれたくないから、保険が欲しいのはわかるんだけどね』
「その人が払うとは限らないじゃない」
『書かせることに意味があるんだよ』
「変なの」
『昔からのやり方をそう簡単には変えられないからね』
私は側に置いていたコーヒーを飲みながら、その後もひたすらヒロさんとしゃべった。
今日は一時間だから沢山話せるなんて始まる時は思ったけれどあっという間。
結局終わりに感じる、この寂しさはいつでも一緒だ。
むしろ回数を重ねるにつれて大きくなっている。
『そろそろ時間だね』
「うん・・・・・・」
『そろそろ残り回数もわずかだよね』
「うん。またヒロさんを指名出来れば良いのに」
『ここは同じ人間は二度とスタッフとして対応しないようになってるけど、それが良いんだよ。
あくまでここはお茶でも飲みながらスタッフと話して一休みする場所だからね』
「うん・・・・・・」
『ほらほら、これが終わったら早く寝るんだよ?』
お父さんがいたらこうやって注意してくれるものなのだろうか。
「寝る、多分」
『困った子だね』
こうやって困ったような声が聞けるのが嬉しい。
親を困らせたい子供というのはこんな感じなのだろうか。
困らせて、それでも構ってくれるとその愛情を感じるために。
だけれどここは金銭で成り立つ場。
親が子に示す愛情では無い。
わかっているからこそ、その優しさが寂しい。
「なるべく早く寝るよ。
じゃぁまたね、お父さん」
『あぁ、お腹を出さないで寝るんだよ。
風邪なんて引いたら心配で眠れなくなるからね』
少し笑いを含んだ声で、通話は切れた。
私はヘッドセットを頭から外し、コーヒーの入ったマグカップを持ち、一口飲んだ。
終わった後は満足感と、そして寂しさがいつも襲ってくる。
あくまでここはカフェ、休憩する場所。
ずっと居座る場所では無い。
わかっていても、この寂しさは簡単に消えなかった。
『うん』
「最初はあんなに何でも話してって言ってたのに、しばらくするとまだ落ち込んでるの、って面倒そうなのがわかりやすく伝わってきて」
『私の時もそうだったよ』
「やっぱり?」
『入院先に会社の人事部の担当者が、ところでいつ復帰ですか?って聞きに来たよ、体重が落ちて点滴でなんとか生きてた私を見ながらね』
「殴ってやりたい、そいつ」
『ありがとう』
はは、という笑い声に、どれだけの苦しみをヒロさんは一人で乗り越えて来たのだろうと思った。
「きっと会社に戻っても、またお局、私の悪口を言いふらしていそう」
『うん、その可能性は高いね』
「どうしたらいいかなぁ」
『どうもしなくて良いよ。
あぁいう人間とは関わるべきじゃない。
ひたすら接触は最小限に。
せっかく部署も変わるんだし。
嫌な話が聞こえてきたら、可哀想な人だなって心底哀れめばいい』
「そっかぁ、それしかないのかぁ」
結局私がまた我慢し、かわす日々が始まる。
でも今の会社は私の学歴にしては給料は悪くない。
これがせめて短大でも出られていたら違ったのだろうが、うちの財政状況では諦めざるをえなかった。
ふと入院するときのことを思い出した。
「そうそう、入院した時、身元保証人書けって言われたの。
家族も親戚も誰も居ないって言ったら、看護師さんがかけあってくれたみたいで無しで済んだよ。
今度入院する時も言われるのかな、ダメだと入院できないのかな」
『あぁ、昔よりは厳しくなくなったなんていうけど、病院も金を取りっぱぐれたくないから、保険が欲しいのはわかるんだけどね』
「その人が払うとは限らないじゃない」
『書かせることに意味があるんだよ』
「変なの」
『昔からのやり方をそう簡単には変えられないからね』
私は側に置いていたコーヒーを飲みながら、その後もひたすらヒロさんとしゃべった。
今日は一時間だから沢山話せるなんて始まる時は思ったけれどあっという間。
結局終わりに感じる、この寂しさはいつでも一緒だ。
むしろ回数を重ねるにつれて大きくなっている。
『そろそろ時間だね』
「うん・・・・・・」
『そろそろ残り回数もわずかだよね』
「うん。またヒロさんを指名出来れば良いのに」
『ここは同じ人間は二度とスタッフとして対応しないようになってるけど、それが良いんだよ。
あくまでここはお茶でも飲みながらスタッフと話して一休みする場所だからね』
「うん・・・・・・」
『ほらほら、これが終わったら早く寝るんだよ?』
お父さんがいたらこうやって注意してくれるものなのだろうか。
「寝る、多分」
『困った子だね』
こうやって困ったような声が聞けるのが嬉しい。
親を困らせたい子供というのはこんな感じなのだろうか。
困らせて、それでも構ってくれるとその愛情を感じるために。
だけれどここは金銭で成り立つ場。
親が子に示す愛情では無い。
わかっているからこそ、その優しさが寂しい。
「なるべく早く寝るよ。
じゃぁまたね、お父さん」
『あぁ、お腹を出さないで寝るんだよ。
風邪なんて引いたら心配で眠れなくなるからね』
少し笑いを含んだ声で、通話は切れた。
私はヘッドセットを頭から外し、コーヒーの入ったマグカップを持ち、一口飲んだ。
終わった後は満足感と、そして寂しさがいつも襲ってくる。
あくまでここはカフェ、休憩する場所。
ずっと居座る場所では無い。
わかっていても、この寂しさは簡単に消えなかった。