宿り木カフェ

Case3 会社の上司と不倫をしている27歳



私、林清香(さやか)は恋に落ちた。

その人は、同じ部署で直属の上司。
私とは10歳くらい上で、転職組で即戦力としてこの会社に入った。
本当に見事な手腕で仕事をこなし、そして男性女性関係なく気遣いをする。
そんな人を私は初めて見た。

大抵の男性上司は、気に入った女の子だけ甘かったり若い子だけ甘かったりで、同性まで配慮する人なんていなかった。
けれど、あの人は違った。

人一倍仕事をしているのを側で見ていた。
私が一度ヘマをしたとき、彼がフォローを即座にしてくれた。
あの時の鮮やかなフォローは未だに思い出すと、感動する。

でも後で、1人だけ会議室に呼び出された。
私はこっぴどく叱られることを覚悟していた。
それだけの事をしてしまったし、私は怯えながら会議室に行けば、彼に座るよう剥がされた。

怒ると思っていた彼は、淡々とどこがまずかったのか、何によりそのミスが引き起こされたのか、どう直すべきか、事細かに指摘し、そんなに私の仕事を見ていてくれたのかと驚いた。

そして彼は言った。

『君が真面目で努力しているのはわかっている。
だけどこれは仕事だ、ミスはミス、問題は放置できない。
だが失敗なんて人間である以上誰にでもある。
要はその後のフォローがどれだけ出来るかだ。
場合によれば逆に信用を得る場合だってある。
今話したことは君も理解したね?
そこを踏まえて再度頑張りなさい』

と。

彼は無駄に甘やかすような言葉を言うことも無意味な叱責もしなかった。
私のためを思って言ってくれている、それが全てから伝わってきた。
不謹慎だけれど、とても嬉しかった。

『ありがとうございます!
今後ともご指導の程、よろしくお願いいたします!』

私が頭を勢いよく下げたら、ぷっ、という声に驚いて顔をあげると、私の顔を見た途端、思い切り彼は笑い出した。

初めて見た、子供の様に屈託無く笑う顔。
恋に落ちる、私はその瞬間を味わった。

『君は面白いね』

そう言って優しく笑った彼に、私はなんとしても近づきたくなった。



あの一件後、より必至に仕事を頑張った。
そしてとあるプロジェクトのメンバーに選ばれた。
リーダーは彼だった。

ある時、地方にプレゼンに行くため、私は彼に出張の同行を指名された。
嬉しかった。
プレゼンを任せて貰える。
それだけ仕事ぶりを認められた気がした。
周囲も、喜ぶ私の背中を押してくれた。


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