宿り木カフェ
「いや~良かったですー、ふふふ」
「うん、良かったから頑張って歩いて。
ほらぶつかるよ、前見て」
私は任されたプレゼンが大成功に終わり、そのまま取引先との会食に出席。
緊張してお酒を飲んでいたせいか取引先を見送ったあと、一気にお酒が回ってきた。
ふらふら歩く私を、彼が支えてくれている。
思ったより大きな腕が私を軽々と支えているようだ。
食事を接待したレストランが入っていたのは自分達の泊まるホテルだったので、私は余計にあっという間に緊張感が解けてしまったのと、成功の嬉しさで笑顔になる。
そして、彼が私を構ってくれることが嬉しい。
「ルームキー出せる?自分で部屋に入れるね?」
「はいー」
私は鞄からごそごそとルームキーを出して、薄い入り口に差し込もうとするけれど、入り口が逃げてしまう。
「あぁもう、貸して!」
彼は私の手からキーを取り上げると、すんなりとドアを開けた。
「大丈夫だね?入れるね?」
「はいー」
ごん!とドアに勢いよく頭をぶつけ、ずるっと倒れそうになるのを彼が支えた。
ため息が聞こえ、彼は再度私の身体に手を回す。
私は安心しきって彼に寄り抱えれば、彼は何か言いながらも引きずるようにベットまで運んでくれた。
「ここにミネラルウォーター置いておくから。
勝手に触って悪いけどスマホは横に置いておくよ?
明日朝電話かけるから」
冷たいベットでごろんと寝転がりながら、横で声をかけながら何かしている彼の腕を、むんずと掴んで勢いよく引っ張った。
どさり、と私の真横に倒れ込み、彼が驚いてすぐベットの端から立ち上がろうとするのを止めるため、私は再度彼の腕を掴んだ。
「好きです」
「・・・・・・え?」
「好きなんです」
酒の勢いって凄い。
こんな場所で二人きり。
もう告白するならここしかないと思えた。
なんとか上半身を起こし、私から距離を取ろうとする彼の腕を掴みながらそういうと、彼は目を見開いて私を見た。
「課長は、どう、思ってますか?私の事」
彼は黙っている。
私の視線から顔を逸らした。
「嫌いですか?」
「いや、まさか」
「女として魅力無いのはわかってますけど」
「いや、君は魅力的だよ」
思ってもいない言葉が彼から飛び出し、今度は私が目を丸くした。
いつの間にかこちらを見ていた彼はしまった、というように手を口に当てると、ばつが悪そうに顔を背けた。
「なら、私を女としてみてくれませんか?」
「見てるじゃないか」
「抱いて下さい」
私の言葉に、彼の表情が固まった。
彼は腕を掴んでいる私の手を、もう一つの手でゆっくりと外した。
「悪酔いしすぎだ」
「本気です」
私は起き上がり、未だベットの縁に腰掛けたままの彼に近づく。
「君は忘れてないか?俺は既婚者だぞ?」
「知ってます」
「からかうのもいい加減に」
「本気なんです」
今度は強く言った。
窓からの明かりしか無い部屋で、彼の目が揺れている。
「家庭を壊す気なんてありません。
家族のために頑張っている課長も大好きなんです。
だから、邪魔しないから」
私は彼の首に腕を回し、身体を密着させた。
さっきは手を外された。
だけど今彼は全く動かない。
心臓の音が聞こえる。
きっと自分の心臓の音なのに、この早鐘は彼の物だったらいいのにと願ってしまう。
どうか私にドキドキして欲しい。
女として見て欲しい。
「好きです」
彼の耳元で囁く。
ドサリ、という音共に、突然私の目線が天井に向く。
そこには、彼の切羽詰まったような顔。
「・・・・・・良いんだな?」
そこには、見たことも無いほどに雄な表情を浮かべる男がいた。
私はその表情が、劣情が、自分に向けられていることに全身がぶるり、と震える。
そして、静かに頷いた。