宿り木カフェ

「どうしよう、息子もそう思っているのかしら」

『息子さん、家に帰ってきていますか?』

「えぇ。
でもオンラインゲームがしたいからだけだと思うわ、パソコンと独りになれる環境が必要でしょうから」

『帰ってきて一歩も部屋から出ませんか?』

「そうじゃないけど、一時期酷くなって何とか話し合いは出来たの。
それで食事だけは一緒にしようと。
でもダイニングに来ても、ずっとスマホをいじってばかりで話もしないけれど」

『ならまだ大丈夫です。
本当に嫌なら食事を持ってこさせるし、わざわざ部屋から出てきませんよ』

「そうかしら・・・・・・。
ごめんなさい話を折って。
続きの話を聞かせてもらえる?」

『えっと、親が憎かったって話をしましたね。
それは両親ができの良い妹の方を大事にしている気がして面白くなくて。
時々妹を苛めたりしました。
妹に嫌われていたのも当然です』

「そうなの・・・・・・。
うちは妹が、お兄ちゃんばかりずるいと言うのよ」

『もしかしたら妹もそう思っていたのかも知れませんね。
当時の僕には絶対思いつきもしなかったでしょうけど』

苦笑いするのが伝わってくる。
急に気がついた。
私に過去のことを話すことで、この子に心の傷を増やしていないだろうか。

「ごめんなさい、辛い思い出を話させてしまって。
聞いておいて勝手だけれど、もうやめて良いから」

『あっ、すみません。そういうのでは無いんです。
話したいから、話しているんです。
そうじゃなきゃ、スタッフに登録したりしませんから』

慌てたように彼は言った。
彼なりに何か理由があって、宿り木カフェのスタッフをしているのだろう。
私は彼に、大丈夫なら話を続けて欲しいとお願いした。
どうしても、そんな彼の人生が知りたくなった。

『まぁ小学生でそんな状態だったので、中学に入ると悪化しました。
付き合う相手がより悪かったんです。
その連中が盗みとかタバコや酒というのをしているのは聞きました。
僕はしてませんでしたが、そんな事をすることに憧れすら持ってましたね。

それで震災のあったあの日。
僕は学校をずる休みし、悪友達とショッピングセンターでたむろしてました。
数日前から家族とろくに会話もしてませんでしたが、別になんとも思っていませんでした。
まさか二度と話せなくなるなんて、思ってもいませんでしたから』

私は淡々と話す、ネットの向こう側にいる現実の男の子の表情が気になりながら、話をじっと聞いていた。

『地震直後、自分達は何がなんだかわかりませんでした。
心配で家に戻るメンバーも居ました。
僕は戻りませんでした。
大した事はないと思っていたんです』

少し言葉が止まった。
泣いているのではと心配になる。

「ごめんなさい、やっぱり止めない?」

『いえ、聞いて下さい。
自分達が居た場所は高台でした。

結果として僕やそこに居た人達、逃げてきた人は助かりました。
僕の家は海岸線に近くで津波にのみ込まれました。
街が津波に飲み込まれるのを多くの人達と目の当たりにしました。
それが現実なのに、それを見ながらも現実に思えなくて。
そして初めて家族が心配になりました。

これは全て後から色々な人達に聞いて回って知ったことですが、父は仕事先から家に向かおうとしていた車に乗ったまま、家には母と妹がいたようで、母は妹を家に居るように言って、僕を捜しに車で出ていったそうです。

僕は家族を探し始めました。
家が無くなったことはわかっていたので避難所を何カ所も回って。
でも人づてに父の遺体があると聞き、父の遺体と向き合って初めて家族が消えてしまったのかも知れないと理解したんです。
妹はそれからかなり探し回って、見つけたのはかなり離れたとある体育館に並んでいる遺体の一つでした。
そして、僕を捜しに行ったまま、母は未だに見つかっていません』

言葉が出ない。

初めて震災の被災者から生々しい言葉を聞いている。
そんなことの経験が無く、なんて言葉を出して、そしてこの子にかけていいのかわからなかった。
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