宿り木カフェ
画面の下に、ピコンと表示が出た。
終了間近を知らせている。
『あ、そろそろ終わりですね。
すみません、僕ばかりこんな話を』
「いえ、いいのよ」
『これじゃ僕がお客さんです、まずいです』
「ううん、私はこんな事を言ってはいけないのかもしれないけれど、とても貴重な話を聞けているわ。
まだ大丈夫なのならイチロウ君の話を聞かせて。
それと、こういう話をした後は自覚が無くても精神的にダメージがくるから、ゆっくり深呼吸して、温かい飲み物でも飲んで落ち着けてね」
『はい。
さすがは看護師をされていただけありますね、参考にします。
では、失礼します』
通話が終わった。
正直気持ちが重かった。
たった中学生の子供が味わったものとしては重すぎる現実だ。
しかしそれが沢山の人に起きたのだ。
ニュースで知っているようで、当事者から話を聞くという重みの違いを味わった。
「なにそれ」
翌日私は図書館に行って、震災関連の本を数冊借りてきた。
それも子供が経験したことをまとめてある本も含めて。
その本を夜読んでいたら、飲み物を取りに来た長男が珍しく話しかけてきた。
「震災を経験した子供達の話をまとめた本よ」
「へー、俺関係ないし」
「あなたより年下の子が、家族全ていなくなったりしたのよ?」
「だからそれ俺じゃないし」
「あなたが明日その立場にならない保証なんてないでしょ?」
「そんなん知らね」
息子はもの凄く嫌そうな顔をすると、飲み物を持って部屋に戻ってしまった。
そうだ、明日、私やこの子が死ぬかも知れないし、私だけ生き残るかも知れない。
そんなこと、深く考えた事なんて無かった。
それを息子は今話しても自分の事に置き換えて考えられないだろう。
本を読みながら、私は色々と考えていた。
『宿り木カフェ』に登録したきっかけは、私は一体?と思う虚しさだった。
もし明日私が死ぬとしたら?子供達が、夫が死んで私一人残されたら?
全て解放されただなんて思うのだろうか。
いや、必至に人生を注いでいたものを全て失って解放される訳が無い。
むしろ抜け殻になるだろう。
思い返せば今と家族のことしか考えていなかった。
全く違う世界に触れ、それも自分の子供の年齢に近い子供から、いや、遙かに多くの事を経験したであろう彼から聞く言葉は、ずっと主婦という職業で生きていた私には刺激がおそろしく大きかった。
専業主婦の母を嫌っていたあの子も、震災があったから今の彼になったのだろう。
しかし本を読んでいる私に声をかけた息子は、私の問いかけにあんな返答しかしなかった。
それにため息しか出ない。
私の何が悪かったのだろうか。
きっとあの子のお母さんもそんな気持ちだったような気がする。
どんな気持ちで、必至に息子を捜しに行ったのだろう。
私はひたすらに落ち込んでしまった。
「ねぇ、なんで今度は落ち込んでるの」
また娘に指摘された。
私がわかりやすいのか、娘が鋭いのかわからないのだけれど。
「ちょっとね・・・・・・」
ため息混じりに返事をして、娘にも聞いてみようと思った。
「ねぇ、この後震災に巻き込まれて、あなた以外みんな死んでしまったらどうする?」
娘は一瞬ぽかんとしたが、
「私も死ぬ」
それだけ言って部屋に戻っていった。
刺激が強かっただろうか。
でも彼がその立場になったのは娘と同じ年齢。
年齢なんて実際は関係ないのに。
やはり子供と向き合うのは難しい。