宿り木カフェ
『それなりにやってるじゃない』
私が思いついたさっきの事をタクヤさんに言うとそう返された。
「でも、それは特に努力と呼べるものでは無いんじゃ」
『君って思ったより自分に課すハードルが高いんだね。
それじゃ生きるのが息苦しくなるよ。
それと、そもそもどんな男性を結婚相手に求めてるの?』
「やっぱり身長は私より高い方がいいし、収入だってそれなりにあってほしいし、浮気しない人が良いし、出来れば顔も悪くない人が良い」
『贅沢だな!自分に自信が無い割に!』
「えー、贅沢なんだ・・・・・・」
『自分を安く見ろと言ってるんじゃない。
自分の自信を無くせとも言ってない。
そうじゃなくて、今までのフィルターは消して男と会うべきだよ』
私は黙り込む。
そんなにも自然と今までの感覚でいたのだろうか、あんなに自分はダメだと悲しくなっていた癖に。
『落ち込んだ?』
「そりゃぁね」
『とりあえずさ、例の研究者と交際してみたら?』
「さっきの条件のどれにも当てはまらない」
『でも、気になるんだろ?』
そう言われ、うーんと悩む。
『俺はさ、自然体でいられる相手に出逢えたわけよ。
だから結婚しても良いなと思ったわけで。
君も自然体でいられて楽じゃない?』
「自然体と言うより、どうでも良いような」
『君は思った以上に自分に自信が無くて、でも頭が固い。
それじゃそのままで終わるけど良いわけ?』
「酷い・・・・・・。
もちろん良いわけ無いわよ」
『あぁもう時間が来るな』
「うわ、もう1時間?!」
『あとは残り30分1回か。
なら、決めてこい!そして最高の報告をしてくれ!』
「え!」
『ダメならそれでいい。
とりあえずもう一度食事行って相手をけしかけろ!』
「えええ!」
『じゃぁ本日はそういう事で!』
「あ!」
見事に画面には通話終了の表示。
私はがくりと肩を落とした。
ふと机に置いたスマホを見れば、まさかの松本さんからのメール。
開いてみれば、食事の誘い。
それも今度はフレンチのお店を予約しました、なんて書いてあって驚く。
「良いわよ、決めてやろうじゃないの」
私はよくわからない闘争心を抱いていた。