姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
無限の独占欲 雅貴Side
 おでこにキスを繰り返しているうちに、百花は眠ってしまった。

 疲れていないと言っていたが、朝早くに起きて支度し、一日中気を張っていたのだから無理もない。ウエディングドレス姿の百花を思い出し、頬が緩む。百花は世界で一番美しい花嫁だった。

――今日の日を俺がどれだけ楽しみにしていたか、百花は知らないだろ?

 無垢な寝顔を見つめながら、心の中で語りかける。

 不意に百花が中学二年生の頃が脳裏をよぎった。

 彼女はクラスメイトの男の子に告白し、『二番目でもよければ付き合ってもいいよ』という不誠実な返事をもらい、その条件をのもうとしていたのだ。

『彼に嫌われているよりは、付き合ってもいいと言ってくれたのはうれしかったんです。だから今はまだ二番目でもいいかなと思うけど』と口にする彼女に、俺はつい我を忘れて私見を述べた。

 純粋で未熟な百花に対してかける言葉ではないとわかっていても、男のずるさを疑いもしない彼女が心配で放っておけなかったのだ。

 その結果、素直に俺の言葉を聞き入れてクラスメイトの男の子と付き合わなかった百花を愛おしく感じたのは言うまでもない。

 それから十年が経ち、今夜、バスルームから露出度の高いキャミソール姿で出てきたのを見たときは、正直かなり狼狽した。彼女はいつの間にかおとなの女性になっていたのだ。

 本音が表情に出ないタイプなのは幸いだ。もしも俺が目を血走らせ鼻息を荒くしていたら、百花にもっと嫌がられただろう。

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