姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 あれは雅貴さんが愛しているのは姉だから、姉が列席する前で私と少しでも深く触れ合わないように配慮しただけなのだ。

 でもそれを彼には言えない。

 今すぐあなたに抱いてもらいたいなんて、もっと言えない。

「そんな顔しないで。責めてるわけじゃない。交際期間もなく結婚したんだから、心が追いつかないのは当然だ」

「雅貴さん、私……」

 口ごもると、ちゅっとおでこにキスされる。

「でもここだけはもう俺のものだからね」

 悪戯っぽくささやきながら、雅貴さんは私のおでこにキスを繰り返した。

「焦らなくていい。ゆっくりでいいよ」

 雅貴さんは穏やかで思いやりがあって、どこまでも優しい。

 心は手に入らなくても、彼の体だけは今すぐほしいと考えていた私は浅はかだった。

 これが今の私と彼の正しい距離なのだ。

 彼は姉に未練がある中で、私と本当の夫婦になるためにがんばってくれている。

 それなら私はまず、彼にとって二番目の女性でも好きになってもらえるように精いっぱい努力をしよう。

 彼の言う通り、焦らないでゆっくりと。

 今日からふたりで長い人生を歩んでいくのだから。
 

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