姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
理性は無限にない 雅貴Side
「しかたないよね。朝早くから運転してくれたんだもの」

 前から思っていたが、百花は独り言が多い。

 疲れたとつぶやいて寝たふりをした俺に、百花はそう自分を納得させたようだ。素直な彼女にうしろめたさが込み上げてくる。

 実際は、まったくもって疲れていないし、むしろ頭が冴え冴えしていた。

 百花が積極的すぎて困る。うれしい悩みだが、同時に生殺しでもあった。

『好きじゃなくてもできます……』なんて、なによりもほしくない言葉だったから。

 百花は俺を好きじゃなくても、俺とセックスできる。それでもいいとは到底思えなかった。

 彼女からキスされ俺の理性は呆気なく吹っ飛びかけたが、その言葉で我に返ったのだ。

 俺にキスしてくれたのは、今日の感謝の気持ちを伝えたかっただけ。俺を愛しているからじゃない。

「幸せな一日をありがとうございます。おやすみなさい、雅貴さん」

 俺が熟睡していると思い込み、百花がぎゅっと抱きついてきた。

 この行動は、毎晩繰り返されている。

 彼女は俺が眠っているのを確認してから、こうしてぴったりと身を寄せてくるのだ。しかしこれもまた、俺はただの抱き枕にすぎないのだろう。

 常に俺に意識があるのを、彼女は知らない。

 おかげで俺は彼女に愛されてはいなくても、嫌がられてもいないのだと伝わっていた。それだけは幸いだ。

 俺は百花の体だけがほしいのではない。心を通わせ合いたい。

 
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