すみっこ屋敷の魔法使い
ドロテアが普段過ごしているのは、すみっこ屋敷からしばらく歩いたところにある街中だった。たくさんの店が並ぶ賑やかなところで、思わずモアはきょろきょろと色んなところを見渡してしまう。
「まずはね、服を買いたいの。付き合って!」
「服……? 新しい服が必要なのですか?」
「ダニエルに告白するときの勝負服! カワイイの買うの!」
「そういうものなのですね……」
「? モア、好きな人いないの? こういうのわからない?」
「好きな人……ですか?」
ドロテアに尋ねられて、モアは考え込む。
「好き」というものがよくわらかない。イリスは「心がときめくもの」「幸せな気持ちになれるもの」と色々な言葉を使って形容してくれたが、結局のところ理解はできていなかった。「好き」な人に告白するときには勝負服が必要らしい、と聞いて、モアは余計にわけがわからなくなってしまう。
「さっきの、イリスさんとか? 違うの?」
「イリス、ですか。……。私はイリスのことが好きなのでしょうか」
「私が聞いているんだよ~?」
考えても考えてもわからなかった。
ドロテアは不思議そうな顔をして、またモアの手を引く。
ドロテアが入っていった店は、女性ものの服が売っているブティックだった。カジュアルなドレスがたくさん並んでおり、店内はなんだかいい匂いがする。
モアは早速気になる服を見つけたのか、早足で歩き出す。そして服をとると、自らの身体に重ねるようにして服をかざした。
「これ、どう? モア」
「えっ……と、華やかな服、です」
「そうじゃなくて、私に似合う?」
「……。似合っているのではないでしょうか」
「本当ぉ?」
うーん、と唸って、ドロテアはもう1着の服を手に取る。
「こっちの服と、こっちの服……どっちがいいかな?」
「……右のほうがドロテア様に馴染んでいるように見えます」
「やっぱり? ふふ、この服カワイイよね」
ぱちくり。モアは瞬いて、ドロテアの笑顔を眺める。
自分が選んだ服を見て笑う彼女。カワイイ服を持って笑う彼女。ドロテアを見ていると、心がふわふわとしてくる。
「ねえっ! モア! こっち来て!」
ドロテアはモアの手を引いて、1着の服を押しつけてきた。水色のワンピースだった。モアが戸惑っていると、ドロテアは「着てみてよ!」と言う。そして彼女は店員と話をしたかと思うと、モアを試着室に押し込んだ。
「なっ、なんでしょうか、ドロテア様!」
「着てみて! きっと似合うから!」
「は、はあ……」
モアはおろおろとしながら姿見を見つめる。
今日のモアは、エディの屋敷で着ていたものをそのまま着ていた。黒を基調としたシンプルなドレス。いつもこのような黒い服を着ているので、このワンピースのように明るい色の服を着ることはほとんどない。……昨日着せられたサロペットは例外だけれど。
モアはよいせよいせとなんとか着替えて、そろりと試着室から出てみた。その瞬間、ドロテアが駆け寄ってきて「かわいいー!」と声をあげる。
「モア、やっぱり可愛いね。このワンピースすごく似合っている!」
「そうでしょうか……」
ドロテアはきゃっきゃっと笑っている。
なぜ、ドロテアは笑っているのだろう……。
モアは彼女の考えていることがわからなかった。けれど、その声色が――あの、文房具屋で聞いた女の子たちの声と似ていたから。モアはハッとしてしまう。自分は今、普通の女の子のようなことをしているのだろうか、と。
「まずはね、服を買いたいの。付き合って!」
「服……? 新しい服が必要なのですか?」
「ダニエルに告白するときの勝負服! カワイイの買うの!」
「そういうものなのですね……」
「? モア、好きな人いないの? こういうのわからない?」
「好きな人……ですか?」
ドロテアに尋ねられて、モアは考え込む。
「好き」というものがよくわらかない。イリスは「心がときめくもの」「幸せな気持ちになれるもの」と色々な言葉を使って形容してくれたが、結局のところ理解はできていなかった。「好き」な人に告白するときには勝負服が必要らしい、と聞いて、モアは余計にわけがわからなくなってしまう。
「さっきの、イリスさんとか? 違うの?」
「イリス、ですか。……。私はイリスのことが好きなのでしょうか」
「私が聞いているんだよ~?」
考えても考えてもわからなかった。
ドロテアは不思議そうな顔をして、またモアの手を引く。
ドロテアが入っていった店は、女性ものの服が売っているブティックだった。カジュアルなドレスがたくさん並んでおり、店内はなんだかいい匂いがする。
モアは早速気になる服を見つけたのか、早足で歩き出す。そして服をとると、自らの身体に重ねるようにして服をかざした。
「これ、どう? モア」
「えっ……と、華やかな服、です」
「そうじゃなくて、私に似合う?」
「……。似合っているのではないでしょうか」
「本当ぉ?」
うーん、と唸って、ドロテアはもう1着の服を手に取る。
「こっちの服と、こっちの服……どっちがいいかな?」
「……右のほうがドロテア様に馴染んでいるように見えます」
「やっぱり? ふふ、この服カワイイよね」
ぱちくり。モアは瞬いて、ドロテアの笑顔を眺める。
自分が選んだ服を見て笑う彼女。カワイイ服を持って笑う彼女。ドロテアを見ていると、心がふわふわとしてくる。
「ねえっ! モア! こっち来て!」
ドロテアはモアの手を引いて、1着の服を押しつけてきた。水色のワンピースだった。モアが戸惑っていると、ドロテアは「着てみてよ!」と言う。そして彼女は店員と話をしたかと思うと、モアを試着室に押し込んだ。
「なっ、なんでしょうか、ドロテア様!」
「着てみて! きっと似合うから!」
「は、はあ……」
モアはおろおろとしながら姿見を見つめる。
今日のモアは、エディの屋敷で着ていたものをそのまま着ていた。黒を基調としたシンプルなドレス。いつもこのような黒い服を着ているので、このワンピースのように明るい色の服を着ることはほとんどない。……昨日着せられたサロペットは例外だけれど。
モアはよいせよいせとなんとか着替えて、そろりと試着室から出てみた。その瞬間、ドロテアが駆け寄ってきて「かわいいー!」と声をあげる。
「モア、やっぱり可愛いね。このワンピースすごく似合っている!」
「そうでしょうか……」
ドロテアはきゃっきゃっと笑っている。
なぜ、ドロテアは笑っているのだろう……。
モアは彼女の考えていることがわからなかった。けれど、その声色が――あの、文房具屋で聞いた女の子たちの声と似ていたから。モアはハッとしてしまう。自分は今、普通の女の子のようなことをしているのだろうか、と。