意地悪で優しいあなたの溺愛
「俺のために泣かなくて良い。別に今の暮らしはそこそこ気に入ってる」

左京くんは1度言葉を切った。

そして、瞳の奥に熱を宿してこちらを見つめた。

「胡桃にまた出会えたから。胡桃がいればどんなことでもできるから。…胡桃、愛してる」

「さっ、きょうくんっ」

小学校まで、普通の家庭で育ったのだ。

マナーだとか、学力だとか、財閥の息子としては足りないことがたくさんあったに違いない。

それでも左京くんは努力して、今や右京くんと大差ないレベルだ。

その努力は計り知れない。

言葉で表せない気持ちを込めて左京くんをぎゅっと抱きしめる。

「ねぇ、胡桃、やっぱ今日、俺んち来て」

「…ん?別にいいけど、なんで?」

左京くんが甘えるように額を私の肩口にうずめてくる。

「胡桃がかわいいから。外に出したらもったいない」

「…?ありが、とう?」

果たしてこれは褒められているのだろうか。

少なくとも、貶しているわけではないだろう。

「ん、行こ」

左京くんの手が私の手をとった。

ただ手を繋ぐだけではなく、指までしっかり絡み合っている。

恋人つなぎだ。

左京くんと恋人つなぎが出来ることがただただ嬉しかった。
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