シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 利香はいつも食事に行くと料理を残した。
 あまり食べると体型が崩れるからと彼女は言った。
 それなのに、彼女は高級料理店にばかり行きたがった。

 彼女にとって食事は味わうだけ。
 酒のおまけに過ぎないのだろう。

 明人が作った料理に対しても彼女は興味がなかった。
 付き合っていたあいだ、彼女が料理を完食したことは一度もなかった。

 波留は『いただきます』の言える子だ。
 ちなみに利香からそんな言葉を聞いたことは一度もなかった。
 料理が出されたら写真を撮ってすぐにSNSへ上げる。
 彼女が一連の作業を終える頃には料理は冷めており、その上箸で少しつついてはSNSの反応をチェックするという繰り返し。

 波留は写真を撮るどころかスマホを取り出すこともなかった。
 別に写真くらいはいいが、それくらい彼女の頭の中は料理を食べることしかないのだと思うとたまらなく嬉しくなった。

『どれもすっごく美味しいから。食べ終わるのがもったいないくらいです』

 波留の言った言葉を思い出して、明人はぞくぞくと快感に震えた。

(ああ、最高だ。君はどれだけ俺の理想なんだ)

 明人は利香のことは頭から退けて、波留のふわふわした姿を思い浮かべながら満足げに笑みを浮かべた。

(可愛い上に食べることが好きで、まだ誰にも染まっていない。ああ、早く料理したい。早く、君を手に入れたい)

 明人はふと思いついた。

「そうだ。結婚しよう」

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