憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「入ってきたら?」
「薄着の妻を一人残して、露天風呂を楽しむのはどうかと思うのだが……」
「……ちょっと。突っ込みを入れないで。私だって、恥ずかしいのよ……」

 潤んだ瞳で彼を見上げたのが悪かったのだろう。

 少し距離があったけれど、彼はつかつかと早歩きでこちらにやってくる。
 その勢いはがっつき過ぎて、恐怖を感じた。
 後退りして逃げようとしたけれど、航晴がこちらへ歩み寄ってくるほうが早い。

「千晴……」
「ひゃ……っ!?」

 抱き上げられた私はキングサイズの天蓋つきベッドまで連行され、ふかふかのベッドに横たえられる。
 航晴が身体から手を離す際に、ドサクサに紛れて胸元で止めていたタオルを剥ぎ取ったのが見えた。

「ちょ……っ!」

 彼の前に一糸まとわぬ姿が晒される――ことはないけれど。
 悪趣味なセクシーランジェリーを晒す羽目になった私は、顔を真っ赤にしながらもじもじと身体を動かした。

「……誘っているのか……?」
「こ、これは……っ。お母さんに、騙されて!」

 航晴が悪趣味としかいいようのない、派手な蝶の下着に身を包んだこちらの姿を目にして、茫然と問いかけたのが印象的だ。

 こちらの反論など、耳に入らないのだろう。
 生唾を飲み込むと、色っぽい声で苦しそうに吐き出す。
 
「……すまない。今日は、我慢できそうにない……」
「え……っ!?」

 ちょ、ちょっと待った。私との約束は!?

 大慌てで覆いかぶさってきた彼の胸元を押して拒んだけれど、びくともしない。
 彼がその気になるとは思わなくて、あっという間にパニックに陥った。

「千晴と思いを通わせた、初めての夜だからな。特別なものにしたい……」

 忘れられない思い出にするって、そういうこと!?

 私の口からは、声にならない悲鳴しか出てこない。
 最初はバタバタ足を動かして、必死に抵抗していたけれど――黙れと命じる時間すら惜しいのでしょうね。

 噛みつくように唇を奪われたら、こちらも抵抗する気を奪われてしまう。

 こうした時は確か、ムードを最優先に考え、目を閉じて与えられる感覚に酔い痴れるのがマナーのはずだけれど……。

 普段と異なる彼の余裕がない表情を楽しむためだけに目を見開き、航晴の姿を堪能していた。
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