プルメリアと偽物花婿
それは自己防衛の笑顔だ。
眉をだらしなく下げ、困ったように取り繕った笑顔は、思い出の彼よりずっと老けていた。
不安が全面に張り付いていてあまりにも情けなくて、冷めきった表情や怒った顔をされた方がよっぽどよかった。
「山田さん、お久しぶりです。少しお話したいのですが、いいですか」
出来るだけ冷静に、でも怒ったように聞こえないように。私は柔らかい声をなんとか出すと、山田さんは観念したように肩を下げた。
近くの喫茶店を提案するけれど、彼はぼそぼそと「会社の人が利用するから……」と呟く。
「それなら駅に個室の居酒屋があったと思うので、そこでどうですか」
「…………」
「時間はそう取るつもりはないんです。十五分もあれば」
「わかりました」
居酒屋に十五分しか滞在しない人間ってなんなんだ。自分に突っ込みを入れられるくらいには落ち着いている。
……というより山田さんが怯え切っているから、落ち着いてしまうのだけど。
「山田さん。私あなたを責めるために来たんじゃないんです。なので、あの、心配しないでください」
そう言うと山田さんはハンカチを取り出して汗をぬぐった。
「……すみません。今日は予定があったので遅れると連絡してもいいですか」
山田さんはスマホを取り出す。真面目な彼らしいが、そのスマホは私を完全にブロックしているんだよなあ、など考えてもしまう。
私は和泉に居酒屋に移動することになったことのメッセージを送っておく。
どこの駅前にもあるような個室チェーン店に入って向かい合って座ると、山田さんは落ち着きなく手元をいじっていて、こちらを見ようともしない。
優し気に見えていた猫背でやわらかい丸い肩も、今は頼りないとしか思えなくて。この人と結婚していたらどんな未来になっていたのかと想像するとぞくりとした。