プルメリアと偽物花婿


 雑居ビルの狭いエレベーターで地上に降りながら、釈然としない気持ちになる。
 そもそも婚約破棄について、一言も謝られていないし。
 私も自分がスッキリするために握手なんかしちゃったけど、なんかエモい感じで終わろうとしているけど。
 たった二千円のお会計で俺が払った風を醸し出しているけど。返した指輪はその百倍の値段ですが。私も半分払っているのですが。
 
 でもここで蒸し返すのも面倒だ。……まあ思い出は美しすぎないほうがいいのかもしれない。

「それじゃあ、今までありがとう」

 山田さんは薄っすらと微笑みまで浮かべる。ありがとう、と言い返す気力も起きない。ありがたくエレベーターはちょうど開いてくれた。
 雑居ビルを出ると、ビルの前に男女がいる。

「こんなところでも会えるなんて運命じゃない?」
「すみません、人と待ち合わせをしているので」

「和泉!?」

 そこには和泉と――田中さんがいた。和泉は私を心配してここで待ってくれていたんだろうけど、運悪くまたしても田中さんと遭遇したというのか。それとも後を付けられて――!?
 
 だけど、私と同じ反応をしたのは山田さんだった。

「ミホ!?」

「え、ヨシくん?」

 田中さんはただでさえぱっちりとした目をさらに丸くして山田さんを見た。

「和泉くん! 和泉くんが待ち合わせしてたのってまさかヨシくん?」

「え? まあそうともいうかもしれませんけど……」
「え、ヨシくんのこと知ってたの!? ヨシくんと話をつけてくれたの!?」

 そう言って田中さんは和泉の腕にしがみついた。
 山田さんが「え……」と呟くのが聞こえるが、私と和泉も同じ言葉を呟いていたに違いない。
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