愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

愛の街

ドーンドーンと、音が鳴るたび、夜空に大輪の花が散る。

色とりどりの光がベリが丘の街を、明るく照らしている。
 
龍之介の腕に抱かれた圭太と康太が大きな目を輝かせて、空を見上げていた。
 
夏の盛りを過ぎたこの日、ベリが丘では、毎年恒例の花火大会が行われている。
 
海上から打ち上げられる花火は、この街の夏の風物詩。

セレブから一般市民まで皆が楽しみにしているイベントだ。
 
有紗と龍之介は子供たちを連れて海辺の遊歩道を歩いてる。

ずらりと並ぶ夜店に、有紗の心は自然と弾んだ。
 
双子も嬉しそうにあっちこっちを指差して大興奮である。

「龍之介さん、重くないですか?」
 
有紗は少し心配になって龍之介に尋ねた。ふたりが喜んでいるのは有紗も嬉しいが、身体を大きく揺らすので抱いている龍之介がつらくないかと思ったのである。
 
通りが人でいっぱいなのはわかっていたからベビーカーは持ってこなかった。

「私、どっちか抱っこします」

「大丈夫。そういう約束だったじゃないか」
 
龍之介がこともなげに言って微笑んだ。

「君の浴衣姿を見るためだ。全然平気だよ」
 
自分を見つめる少し熱のこもった眼差しに、有紗の頬が熱くなった。
 
今有紗は、花火大会の夜らしく、紺色の紫陽花柄の浴衣を着ている。

本当は浴衣なんて一歳の双子を連れている母親が着るものではないと有紗は思う。

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