御曹司と再会したら、愛され双子ママになりまして~身を引いたのに一途に迫られています~【極甘婚シリーズ】
あの夜は、彼にとって一夜限りの出来事。有紗への愛はずっと続くものではないと彼の口から聞きたくなかったのだ。

たとえ一夜だけのことだとしても、あの夜だけは自分は彼に愛されていたのだと思っていたかったから。

"昨夜のことは忘れます。副社長も忘れてください。今までありがとうございました"
 
有紗からの置き手紙に、彼は安堵しただろうか。

あの日から一度も連絡はない。でもきっとそれが手紙に対する彼の返事なのだろう。
 
妊娠していると気がついたのは、故郷の街に帰ってから。

すっかりしょげてしまっていた父親の世話をしながら、閉めてしまった食堂の片付けをはじめた直後だった。
 
もちろん心あたりはひとつだけ。父親は、龍之介以外あり得ない。
 
……相談するべきだということはわかっていた。

でもどうしてもそれができなかったのは、授かったと知った瞬間に、産みたいと強く思ったからだ。
 
自分のこの先の人生は、彼との一夜を思い出に寂しく過ごす日々。

まるでそこにひと筋の光が差し込むような心地がした。

愛する人に愛されることはかなわなかった。ならばこれからは、お腹の子たちのために生きていこう。
 
病気の父親を支えながらの出産は大変だとわかっていたが、それでも決意は変わらなかった。
 
彼に相談すれば、おそらく反対されるだろう。そうでなくても周りの人を不幸にする。

ならば一生誰にも秘密にして、子どもたちには父親がいない寂しさを感じないように愛情深く育てよう。
 
幸運だったのは、有紗の妊娠を知った父が、見違えるほどしっかりしたことだ。

有紗が父親の名を明かさないこには思うところはあるだろうが、それでも娘の窮地を目の当たりにして、みるみる元気になっていった。
 
出産前後はサポートをしてくれて、生まれてから育児を手伝ってくれた。

今では定食屋を再開するまでになったのだ。

父がいなかったらはじめての出産と双子の育児を乗り越えることはできなかっただろう。
 
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