クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 やがてたどり着いたポキ丼の店は、かなりの行列だった。けれど海雪はうきうきした様子を隠すことなく列に並ぶ。

「これだけ並んでいるんですから、きっとすごく美味しいんでしょうね」

 海雪はマグロと雑穀米のポキ丼を、俺はタコのものを選んだ。少し目新しい気がしたのと、別のものを選べば海雪に分けられると思ったのだ。胃袋を掴むじゃないけど……ん、いや、掴めばいいんじゃないか? 胃袋。

「わ、やっぱりお料理好きなだけありますね。ちょっと珍しい系で」

 なんとも答えられなくて、曖昧に目を細めた。笑ったつもりだったけれど、緊張しているのか目しか動かなかった。サングラスで見えていないだろう。

 でも出会ったころと違って、海雪がひどく困ったりしている様子はなくて安心する。
 なぜだろう。

 艦に乗っていたりなんだりで、結婚したのにまだほとんど一緒に過ごせていない。

 それでもなんとなく、海雪は俺が自分に害をなさない人間だとわかってくれたのかもしれない。だとしたらとても嬉しい。

 ポキ丼を抱え、徒歩でビーチに向かう。この通りは古き良き街並みをそこかしこに残していて、レトロな店構えや、ショーウィンドウ越しのビンテージ感あふれる商品を眺めながらそぞろ歩く。

 といっても店を眺めているのは海雪だけで、俺はほとんどチラチラと彼女を盗み見ていた。

 だって好きな人が横で楽しそうにしていたら、そりゃそっちに気を取られるだろ……? かわいいんだから、しかたない。

「ワイキキは人であふれかえっていそうなので、少し離れたビーチまで行ってみませんか?」

 そう言って海雪はスマホを取り出し、俺に見せてくる。軽くうなずき「あっちだな」と指をさすと、海雪は少し驚いた表情を浮かべた。

「一瞬で方角とかわかるものですか? お仕事柄?」

 薄い色のサングラス越しにわかるきらきらした瞳でそんなことを言われると、そうだよと答えてしまいたくなるが、正直あまり関係はない。一応教範は受けるけれども……俺に関しては、昔から地図を読むのがやけに得意なだけだ。ナビもあるいま、特に役立った記憶のない特技だけれど、こうしていま役に立った。

 ……というのを伝えたいのに、俺の口からやっとのことで絞り出されたのは「いや」というひとことだけだった。なんだこれ不愛想にもほどがあるだろう……!
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