クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 ひょい、と柊梧さんが代わりにそれを取ってくれて、私の膝に置いた。

「ありがとうございます。……あの、これ。一ヶ月遅れですけど」

 私は紙袋から小さな包みを取り出した。

「一ヶ月遅れ?」
「バレンタイン……引っ越しだなんだで、プレゼントしそびれていたので」

 取り出したのは、甘さ控えめのクッキーだ。
 この家には、ビルトインタイプの上質な家電が多く備わっていた。米軍将校向けの家だからだろう。
 そのうちのひとつ、大型のオーブンで、昨日柊梧さんがお仕事に行っている間に焼いておいたのだ。

「お口に合うか……しゅ、柊梧さん?」

 柊梧さんはなんだかぼうぜんとしていた。それからうれしそうに、本当にうれしそうに私を抱きしめる。

「どうしたんですか」
「幸せすぎて頭がふわふわしていたんだ。かわいい奥さんから手作りクッキーなんてもらって、うれしくておかしくなりそう」
「大袈裟ですよ」
「そんなことない」

 とても真剣な様子でそう言って、柊梧さんはそのまま味わうように、ゆっくりゆっくりとクッキーを口にした。

 うまい、とかおいしい、とかを何回言われたかわからない。
 くすぐったくて、とても居心地のいい時間だった。




 柊梧さんが医官としての研修のため、一週間ほど家を留守にすることになったのは、それからほどなくのことだった。

「セキュリティは前の家よりも強化してあるけれど、なにかあればすぐに高尾に連絡するように」

 そう言い残し、とにかく心配でたまらないという様子で柊梧さんは家を出た。
 



 その日のうちに雄也さんから連絡があり、心配であれば横浜市内のホテルに身を寄せるようにと言われた。

「このところは、おとなしくしているみたいなのだけれど。ほんとうにごめんね、僕からもよくよく言っておくから」

 うちに様子を見にきてくれた雄也さんが、申し訳なさそうに肩を落とす。

「いえ」

 そう言って首を横に振ると、雄也さんは「そうだ」とカバンから小さな包みを取り出した。

「これ、父さんの書斎で見つけた」
「お父さんの?」

 受け取って布でできた包みを開くと、中に入っていたのは古い母子手帳と一冊のノートだった。
 母子手帳の表紙に書かれた名前を見て、目を見開いた。

「これ……って」
「君と、君のお母さんの母子手帳と、育児日記だよ」

 雄也さんは眉を下げた。
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