クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「父さんがどんな気持ちでこれを取っておいたのか、それはわからないけれど……君が持っておくべきものだと思う」
「あ、ありがとうございます」

 お礼を言いながら、少し戸惑う。
 顔さえ覚えていない、本当のお母さん……。

「それから、これも」

 少し声を明るくして、雄也さんはもうひとつ、包みをくれた。

「これはね、僕から。つい買ってしまって」
「なんですか?」

 開けてみて、と微笑まれて見てみれば、布製の赤ちゃん用のおもちゃだった。シロクマを模してあり、振るとかろんかろんとかわいらしく音が鳴る。

「わあ、かわいい! ありがとうございます」
「遊べるのはまだ先だろうし、気が早かったかな?」
「ふふ、柊梧さんもそう言いながら色々と買ってきてくれます」
「だろうね。きっと子煩悩になるよ」
「そう思います」

 答えつつ、棚に飾られた写真を見る。新居でも柊梧さんはたくさん写真を飾ってくれるから……。
 新婚旅行や結婚式の写真に、もうすぐ生まれる「かわいいちゃん」の写真がたくさん加わるのは間違いなかった。

「楽しみです」

 そう呟く私に、雄也さんは優しそうな微笑みを向けてくれていた。
 雄也さんが帰宅してから、私はそっと母子手帳を開いてみた。

 丁寧に書かれた妊娠の記録をつい目で追う。これが、お母さんの文字……。優しい字だと思った。繊細で、丁寧に止めはねされた字だ。

『おなかに来てくれてありがとう、あかちゃん』
『つわりでしょうか、とても眠いです』
『赤ちゃんは女の子でした。いまからお洋服をそろえるのが楽しみです』
『元気に生まれてくれました! なんてかわいいんでしょう』

 挟まれていた写真が、ひらりと床に落ちる。慌てて拾い上げ、私はそのまま固まった。

「お母さん……」

 私とそっくりの女性が、幸福そうに赤ん坊を抱いている。病室だろう、白いベッドの上だ。この赤ちゃんが、私。

「ちっちゃいな……」

 呟きながら、お腹に触れた。元気な胎動を感じた。かわいいちゃんも、生まれるとききっとこれくらい小さい。

『生まれてきてくれてありがとう、海雪。大好き、大好きよ。私のかわいい海雪』

 ぼろっと涙が零れた。
 私、ちゃんと愛されていたの? 望まれて生まれてきていたの?

 ひとり、うずくまるように泣いていた私の背中を、大きな手のひらが撫でる。

「海雪? どうした? どこか痛むのか……っ」
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