クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「そっくりそのままお返しする。腹の子は正真正銘、俺の子だ」

 ふふん、と愛菜の母親が笑い、海雪に向けてスマホの画面を突き付けた。例の、大井毅にエコー写真を見せている場面だ。

「これが何よりの証拠よ。こっそり実の父親に赤ん坊の写真を見せていたわね」
「これ……って。違います、この時雄也さんもいらっしゃいました」
「え? お兄ちゃん?」

 場にそぐわない間抜けな声を上げたのは愛菜だった。母親に視線を向けるも、母親は気が付いていないのか、似合わぬ派手な赤の引かれた唇を動かした。

「それだけじゃないわよ。いい、あなたが妊娠したとき、柊梧さんはお仕事で海に出られていたんじゃなくって?」
「そ、そうよ」

 愛菜がハッとしたように続ける。

「あんたが行っている病院の事務にこっそり出産予定日を教えてもらったら、六月だっていうじゃない。妊娠は十月十日よ。逆算したら、八月が妊娠した時期よね。柊梧さんは日本にいなかったと天城のご家族から聞いているわ!」

 俺の腕のなかで、海雪が微かに息を吐いたのがわかった。彼女たちの言う「証拠」が実に薄弱なものだったから、安心したのだろう。夏の終わりは確かに、俺は米軍との国際援助で補給艦に乗っていた。

 俺に彼女たちがメールしてきていた文面も、いま愛菜が言った内容と似たようなもの。

 そしてこの家の住所が割れた理由もわかった。まさか病院関係者が……とは思うが、おそらくは金で転んだか。

 呆れて言葉もでない……が、とりあえずは。

「……正確な妊娠週数の数え方をご存じないようで」

 俺は淡々と言う。

「最後の生理があった日から二百八十日後が予定日だというのは、さすがにご存じでしたよね?」

 高尾夫人は一瞬で目を逸らす。

「え?」

 首を傾げたのは、まだ妊娠の知識がないのであろう愛菜だった。俺は続ける。

「つまり、生理一日目が妊娠ゼロ日」
「え? 妊娠期間なのに、妊娠してないじゃない。それに……二百八十日? 9か月と少しということ? ってことは、妊娠したのって秋くらいなの? そんな」

 愛菜が眉をひそめて言う。納得できないと言わんばかりの口ぶりだ。

「そういう数え方だ」

 詳しく解説をしてやる気も起きず、目線で「出ていけ」と促す。愛菜が「でも」と自らの母親を見て、その母親がさっと目を逸らしたのを見て眉を吊り上げた。
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