クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
4章
【4章】柊梧

 海雪が俺に明確に異性としての恋愛感情を抱いてはいないだろうことは、きちんとわかっていた。

 それでも、俺の感情を伝えられたことが嬉しかった。受け入れてくれたことがうれしかった。妻として愛していくと、そう言葉にしてくれたし、実際言葉にしてくれていた。

 このまま穏やかな日々のなか、子どもが生まれ、幸福を海雪が感じてくれたら。その上で、いつか海雪が俺に恋をしてくれたのなら。

 そんなふうに過ごしていたある日、訓練直後に基地に直接慌てふためいた高尾から連絡が入る。

 同時に高尾の母親から不穏なメールが届いているのに気が付いた。届いたのが訓練中で、スマホの電源を入れていなかったためだ。


 高尾の母親が言いたいのは、こういうことらしかった。お腹の赤ん坊の父親は、大井毅である、と。

 送られてきたメールに添付されていたのは、基地近くの公園で海雪と大井毅が笑い合いながらエコー写真を見ているところだった。一瞬嫉妬するけれど、それどころじゃない。

 だいたい、この日のことも高尾から『海雪の様子を見に行ったよ』と連絡を受けていた。

 そして舐め切っているとしか思えないメールの文面。
 ふざけた話だと、家の前で車を乗り捨てるように飛び降りながら舌打ちした。

 どうしてまた家を知られた?

 いくつか考えが浮かんで、あの親子がそこまでする理由に思い至り唇をかみ締めた。

 海雪はいつだって巻き込まれているだけだ。

「いい加減に不貞を認めなさいよ!」

 ガラスを引っ掻くような、不快に上ずった声は高尾愛菜のものだ。室内の声が聞こえる? と玄関の手前で気が付き、芝生の庭を突っ切る。

 開け放たれていた窓から直接リビングに飛び込むと同時に聞こえたのは「私は柊梧さん以外の人に触れられたいとは思いません!」という海雪のきっぱりとした声だった。しゃんと伸びた小さな背中が、堂々と義母と義妹と対峙している。俺は迷わずその背中を抱きしめた。

「すまない、海雪。また遅くなった」
「……! 柊梧さん」

 振り向いた海雪の大きな瞳が、安心で潤む。けれどすぐに強い意志を宿し、高尾親子に視線を戻す。俺を見て高尾愛菜がニタリと笑った。

「柊梧さん。見てくださいました? 不貞の証拠……!」

 本当に嬉しげに愛菜は言う。

「言ったとおりでしょう。その女は、ふしだらな、倫理観のかけらもない、母親そっくりのビッチだって!」
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