《旧版》涙色の夢路(ゆめ)【壱】

第2話 ~華麗なる者~

「……遮那王……?」

 遮那王といえば、(のち)(みなもとの)義経(よしつね)だ。
 これほどまでに麗しい少年を、あたしは見たことがなかった。女顔で、とても男には見えない。性別という概念を疑ってしまうほどだ。

 あれ? でも源義経って、美少年説とそうじゃない説があったよね? 平家物語ではブスとか散々書かれてるけど、やっぱりあれは平家側の人間が言った悪口だったんだ。

「えっと……遮那王君って呼ばせてもらうね」
 絶世の美少年・遮那王君は頷き、横笛を大事そうに着物の懐にしまう。

「ある人から、貴方の名が朝露の君だって聞いてたんだけど……」
「……それは……先程のような追手から逃れる必要もあるし、あまり人に言えぬ仕事をしている故」
「じゃあ、本名は遮那王なんだ」

 あたしの言葉に、彼は無言で頷く。

 どんな仕事をしているのか気になったけど、人に言えない仕事なら聞くわけにはいかない。けれど、偽名を使わなければならないほど、大変な生活を送っているんだということは、察しが付いた。

「どうしてあたしを助けてくれたの?」

「僕が見つけた時、萌華殿は倒れていた。助けぬわけにはいかぬ」
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