青春は、数学に染まる。
第七話 大切な人

初デート


2学期の終業式も終わり、冬休みに入った。
冬休みは数学補習同好会の活動をしないらしい。嬉しい!




伊東とは早川先生と仲直りをしたあの日から会っていない。
まぁ、関係無いから会わなくて良いけど…。





「藤原さん」
「あっ、先生」


雪が舞う最寄り駅。
今日はここで早川先生と待ち合わせをしていた。



所謂(いわゆる)、デートだ。



『補習が無い代わり、と言っては何ですが。僕とデートしませんか』と唐突に切り出した早川先生。


勿論、断る理由も無いからお誘いを受けた。
実は、凄く楽しみで昨日も眠れなかった。


早川先生と初デート。



小走りで早川先生の元へ駆け寄る。先生は、助手席のドアを開けて待ってくれていた。

「お待たせしました」
「大丈夫です、全然待っていません」

上着を脱ぎながら車に乗り込んだ。




今日の早川先生は七三分けをしていないし、眼鏡も掛けていない。

声を聞かなければ早川先生ということに気付かないだろう。



「今日の先生、いつもと全然違いますね」
「ふふふ、でしょう。身バレ対策として、日頃使用しないコンタクトレンズに挑戦しました」

そう言って笑った。
厚手のニットに黒のパンツ、白色のスニーカーを身に着けている。



「先生って本当はかっこいいのですね…」

思わず言葉が漏れる。
車を発進させた早川先生は少し怪訝そうな顔をした。

「本当は…? それはどういう意味ですかね…」
「そのままの意味です」

ふふっと笑うと先生も笑った。
学校の外で会うのは何だか新鮮だ。



「今日は隣の県に行きます。しかも、電車ではなかなか行けない場所にしましょう」
「はい。凄く楽しみです」

車は高速道路に向かって走って行った。




ゆっくりと時が流れる車の中。小音量のラジオから冬の歌が流れていた。

「そういえば、先生って何歳ですか?」
「言っておりませんでしたか。僕は29歳です」
「私より13年上(としうえ)ですか!」
「そうなりますね」


思っていたよりは若かった。失礼ながらも30歳代かと思っていた。

これは秘密だが。


「因みに、伊東先生は僕より上だと思いますか? それとも下だと思いますか?」



ん、伊東? 突然出てきた名前にビックリしたが…。
伊東こそ年上な気がする。



「年上ですかね。若く見える30代とか」

そう言うと噴き出すように笑った。

「ふふふ…。伊東先生悲しみますね」
「え?」
「伊東先生は27歳です。僕の2つ下です」
「ええ!?」

伊東は27歳に見えない! マジか!

「急に親近感が湧きましたか? 伊東先生やっぱり良いなぁとか思いました?」
「…先生の馬鹿」

何でそんなに卑屈なのか。
ていうか11年上(としうえ)の人に親近感なんて湧かないよ。

「そんなこと思いませんよ。私を何だと思っているのですか」
「ふふふ」

早川先生はネガティブだなぁ…。私が直してあげないと。




車は高速を走り続け、その間は会話を楽しんだ。
先生と会話をしていると時間が経つのはあっという間。






駅を出発して2時間が経つ頃、今日の目的地に辿り着いた。

「到着です」
「ありがとうございました」

着いた場所は国営の丘陵(きゅうりょう)公園だった。

噂に聞いたことがある。ここのイルミネーションは地方最大級で、凄く綺麗だとか…。来るのは初めて。




「丁度イルミネーションが見られる時期です。日中は沢山遊んで、夜はイルミネーションを見ましょう」
「はい!」

早川先生は車に置いていた自分の黒いマフラーを私に巻いた。

「…寒いので、これを付けて下さい」
「え。先生が付けて下さい。寒いですよ」
「ふふ、僕は大丈夫です。あと1つ。今日ここでは “先生”って呼ぶの、禁止です」
「え」

名前で呼ぶなんて気恥ずかしい!!
そう思ったが、先生の目を見ていると言葉が引っ込む。

「真帆さん」

急に名前を呼ばれて一瞬で顔が熱くなった。恥ずかしい。

「えっと…早川…さん?」
「違います。僕は裕哉って言います」

いや…勿論、知っていますけど。恥ずかしいじゃない…。

「……」

 私は勇気を出して呼んでみた。

「裕哉…さん」
「よろしいです」

そう言って私の手を握って先生のポケットに手を入れた。
先生の体温で繋いだ手は温かい。

「行きましょう」

ゆっくりと公園の入口へと向かって歩いた。




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