青春は、数学に染まる。

報告


うーん、暇。
朝起きてからずっとベッドの上にいた。



早川先生とのデートから数日が経ち、年も明けた。
今日は1月6日。家でゆっくりと過ごしている冬休みも、今日と明日で終わりになる。




早川先生は元日にメッセージをくれた。

明けましておめでとうございます、の一言と可愛いスタンプ。
そこからやり取りをしていなかったのだけど…。



先程、突然メッセージが来た。


『おはようございます。本日、親御さんのご都合が宜しければ、お伺いさせて頂きたく思いますがいかがでしょうか。お返事をお待ちしております』



固い。引くくらい固い文章。
業務連絡か。


とか思いつつ。


「……うーん」



心拍数が上がってきた。

あれだよね、前に言っていた…うちの親に挨拶をするっていう件。
まさかこの冬休み中だとは思っていなかったから少し焦る。


しかし、幸い親も私も予定がない。
今日なら大丈夫…。

 


先生からのメッセージに既読を付けずにしばらく考えた。

何も言わず急に先生を呼んで話をしたらビックリするかな。
それとも怒るかな…。


どうしよう。
事前に自分の口で言った方が良いかな…?





どうしよう、どうしよう…。







数十分考えたが、どれだけ考えても良い解決法は見つからない。

つまり、悩んだところでどうしようもないということだ。


「…よし」

心の中でガッツポーズをする。

事前に言おう。
そして、親の反応次第で先生に返事しよう。

うん、そうしよう。






リビングからテレビを見ながら笑うお父さんの声が聞こえてくる。
多分、今がチャンス。

頑張れ私、行っちゃえ!



そう決めて、足早にリビングへ向かった。







「あ、真帆。今日のお昼ご飯どうする?うどんか焼きそばが用意出来るけど」
「あぁ…焼きそばで…」
「良いなぁ、焼きそば! わしもそれで!」

あまりにもまったりしている…。
全然切り出すタイミングが見つからなくて、心拍数がどんどん上がる。


「どうしたの、そんなところに突っ立って」
「あ、いや…その…」
「どうしたの。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「……」

大きく深呼吸をする。
その様子を見て横たわっていたお父さんも起き上がった。

「何だ? 真帆、何か一大事か?」
「…いや、あのね。お母さんもお父さんも聞いてほしいんだけど…」

そう言うと、視線がこちらに向いた。


緊張するけど…乗り越えるんだ、自分!



「あの…驚かないで欲しいのだけど…。実はね、あの…ちょっと前に、えっと…彼氏が、出来まして…」
「おぉ!? 彼氏!?」
「あら、真帆やるじゃない。興味が無いのかと思っていたから嬉しいわ!」

お父さんとお母さんはそれぞれ違う感情を出す。

「で、でね…。その彼氏って言うのが…あのー……言いにくいんだけど…その…」
「まさか、オジサンの先生とか」

「………………は?」

「ほら真帆…中学の時、オジサンの先生好きだったでしょう。…その方?」



え、待って。ちょっと待って、はぁ!?


お母さんから衝撃的な言葉が飛び出てきた。



重村先生のことよね。
好きだったということ、家で一言も言ったこと無いけど!?



「何でそれ知っているの!!!!」
「馬鹿ね。貴女が言わなくても親の私には分かるのよ。体育祭や文化祭で、真帆の視線がその先生に向かっていたこととか。卒業式の時だってその先生を探していたじゃない」

顔が真っ赤になるのが分かる。
怖い!! お母さんって怖い!!!

「…で、図星ってこと?」
「いや、そんなわけ! 中学の先生ではないよ!! ただまぁ…あの、先生には代わりなくて…。高校の先生なんだけど」
「あ、先生は本当だったの?」

………。

部屋が静まり返った。


「え…あの、真帆。ごめん、悪い事は言わないから…止めといた方が良いよ。ごめん、中学の先生のことは冗談で言っただけだったんだけど。本当に先生だなんて…」
「そ、そうだ…。先生は…まずいだろ…」

重村先生のことは想定外だったが、『彼氏が先生』だと知ってこんな反応をするのは想定内。そんな素直に良いじゃないと言ってくれないことくらい分かっている。

「で…でね、話は続くんだけど。先生が、お父さんとお母さんに挨拶がしたいって言っているの。今日、呼んでも良いかな?」
「今日!?」
「と、突然すぎるだろ…!」

2人とも焦り始めた。お父さんに関しては時期外れの汗をかいている。そりゃ…そうなるよね…。

「え、えっと…呼んでも良いけど…え、先生よね…」
「わ、わしがどんな人か見極めてやる! チャラチャラしたような人なら、問答無用で追い返すからな…」
「チャラチャラした先生なんているのかしら…?」

いつもと様子が違う両親に私の心拍数もMAXになる。



…取り敢えず、先生を家に呼んでも良いみたい。
ひとまずクリアだ。緊張したけど、呼んでも良いとなればこっちの物。


「母さん…わし、焼きそばいらん…」
「わ、私も…食欲が無くなったわ…」


急にごめん…お父さん、お母さん…。
意気消沈しているお父さんとお母さんに心の中で謝りながら自分の部屋に戻る。




早速さっきのメッセージに返事をした。


『おはようございます。お母さんとお父さんに先生とお付き合いしている事実を話しました。来ても良いとのことです』

すぐに既読が付き、その後電話が掛かってきた。

『藤原さん、話したのですか!!』
「はい。やっぱり、突然先生が来て “付き合っています” って言うと、親が腰を抜かすかと思いまして…」
『いやぁ…まぁ、そうですよね…。藤原さん、ありがとうございます。来ても良いということは、とりあえず会ってくれるということですよね』
「そういうことです。何時頃来ますか?」 

興奮気味の早川先生の声。嬉しそうなのが電話越しに伝わってくる。

『えっと…じゃあ、14時頃お伺いします。よろしくお願いしますね』
「はい、こちらこそお願いします」

そう言って電話を切った。




…先生が、来る。





身支度しなきゃ!
起きてそのままの状態の私は、急いで身支度を始めた。










 
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