気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「いい心構えだ。さっきの出来事でも君の優しく面倒見がいい性格が伝わって来たよ。秘書に向いていると思うから自信をもって」
「ありがとうございます! 渡会さんみたいな人にそう言って貰えて凄く嬉しいです」
 胸の前で手を組み笑顔でお礼を言うと、颯斗が楽しそうに目を細めた。
「俺みたいな人って?」
「あ……仕事が出来そうで、頼りになって尊敬出来る上司のイメージがあるので」
「ずいぶん高く評価してくれてるんだな、お世辞でも嬉しいよ」
「本心ですよ」
 初対面なのにと愚痴を吐いてしまったのは、彼の話しやすさによるものだ。
 一見親しみを感じるタイプではないのだけれど、落ち着きがある態度によるものだろうか。包容力を感じ彼になら弱音を吐きたくなった。
 勘は当たっていて、彼は咲良の悩みについて解決策を講釈したりせず、自然に受け止めてくれた。それもただうんうんと頷くだけでなく、前向きになるようにさり気なく軌道修正してくれている。
 話している内に、咲良に足りないのは自信だと見抜いたのだろう。
 容姿だけでなく人柄までよいなんて、素晴らしい。
「でも残念だな。駒井さんにとって、俺は上司みたいなものか」
 颯斗の端正な顔が憂いを帯びる。
「いえ、そうではないです! ただ仕事が出来そうだなって」
 出来る上司と言ったのは本心だけれど、ただそれだけではない。
 咲良にとって彼は、意識せずにいられない異性だ。
 ちらりとこちらを見るときの流し目。話を聞くときの真剣な横顔。ときどき見せる微笑みは男の色気に溢れていて、いちいちときめいてしまう。
「上司じゃないなら何?」
「それは……」
「男だって意識してくれてた?」
 顰めた声で囁かれて咲良は、思わず頬を染めた。
「……はい」
「光栄だ」
 颯斗は機嫌よく微笑み、グラスを傾ける。咲良も上がった体温を落ち着かせたくて、残っていたお酒を飲み干す。
 ついさっきまで仕事の相談をしていたのに、なぜこんな話になったのだろう。ふたりの間の空気も微妙に変わった気がして、胸の騒めきが止まらない。
 今こうしてふたりで過ごしているのが不思議なくらいだ。
(だって、本当に素敵な人だから)
 どうしても気になってしまい、チラリと伺い見る。すると彼も咲良を見ていたようで視線が重なった。心臓がどくんと跳ねる。
「あ、あの……渡会さんはどんなお仕事をされているんですか?」
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