気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
(経営不振の金洞商会の情報に、自分の結婚まで利用する価値はないでしょう。そもそもライバル企業とすら認識されていないのかも)
 やっぱり咲良の考え過ぎだ。それに颯斗は仕事に卑怯な手段は使わないように見える。
 とは言え、金洞商会と無関係になることは、一応話しておいた方がよさそうだ。
「あの渡会さん、念のためお伝えしておきますが、私は転職する予定なんです」
「金洞商会を辞めるのか?」
 颯斗は意外そうに眉を上げる。
「はい、いろいろあって、六月末に退職しますお」
「次の仕事は決まったのか?」
「いいえ。現在求職中なんですけど、なかなか希望の仕事が見つからなくて」
 深刻さは隠してさらりと告げる。
「希望の仕事は秘書?」
「はい」
 頷くと颯斗はよい案を思いついたとでも言うように顔を輝かせた。
「だったら、俺の会社に来ないか?」
「えっ?」
 咲良は目を瞬いた。
「うちには秘書室はなくて、役員も事務作業からスケジュール管理など自分でこなしているが、そろそろ選任が必要だと思っていたんだ。よかったら候補に入れて欲しい」
「で、でも……誘って頂けるのは光栄ですが、そんな簡単に決めていいんですか?」
 CEOの彼が来いと言うのなら採用はほぼ決まりで、面接などは形式的なものになりそうだ。けれど咲良の経歴などを知らないうちに即決するなんて、逆に不安になる。
 結婚を勘で決めようとしているのと、同じ感覚なのだろうか。
「これでも人を見る目はあるつもりだ。駒井さんの秘書としての心がまえや、これまでの苦労話。それをどう切り抜けて来たかなど体験談を沢山聞かせて貰ったからな。君なら十分戦力になれると思うよ」
 颯斗は咲良が思っていたよりもしっかり話を聞いていてくれたようだ。
(お酒の席で、ただの愚痴だったのに)
 正直言ってとても嬉しい。しかも颯斗のワタライワークスはこれからどんどん成長する企業で魅力的だ。
 そんな会社で秘書として働けるなんて、二度とないチャンスかもしれない。
 働いてみたい。そう口にしようとしたそのとき、颯斗がにこりと微笑んだ。
「それに、妻になる人が仕事を理解してくれたら助かるしな」
 咲良は開きかけた口を閉じる。それから慎重に問いかけた。
「……就職は結婚とセットですか?」
「そういう訳じゃないが、同じ職場になって顔を合わす機会が増えたら親しくなるのも早いだろ?」
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