気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「公私混同は駄目じゃないでしょうか?」
「仕事とプライベートをしっかり分ければいいだけだ。結果を出せば誰にも後ろ指を指されたりはしない。駒井さんなら簡単だろう?」
「そんな軽く言われても」
 しかし颯斗がそのつもりだったら、飛びつく訳にはいかない。
 魅力的な職場だが、慎重に考えなくては。
 もし結婚を受けれて就職したとしても、颯斗が心変わりしないという保証は全くないのだから。立場が上の相手に振り回されるのはもうこりごりだ。
 黙り込んだ咲良の耳に颯斗が囁く。
「返事は待つから、どちらの提案も考えておいて」
 提案――結婚と就職。ここに来るまで想像もしていなかった選択を迫られ、咲良は大いに悩むことになったのだった。

 ◇◇

「あれ? もう帰って来たんだ」
 早めに帰宅すると言う咲良を店の外まで見送り店に戻った颯斗に、カウンターに座る男性が声をかけて来た。
 彼は幼馴染の深見朔朗(ふかみさくろう)。同じ年で実家は隣同士。大学も一緒と、友人と言うよりも家族のような存在だ。
 颯斗と違い線が細く小柄で、繊細な顔立ちが中性的な印象を与える。
 しかし繊細なのは見かけだけ。中身は自分よりもよほど図太いと颯斗は認識している。
 そんな彼と久々にプライベートで飲もうという話になり霽月に立ち寄ったところ、偶然咲良の姿を見付けたため、ひとりで過ごして貰っていたのだ。
 咲良との関係はざっくりではあるが話してあるので、彼の方も空気を読み距離を置いてくれていた。
「彼女、電車じゃないの?」
 意外そうな声音に颯斗は頷き、彼の隣のスツールにどさりと腰を下ろす。
「駅まで送ると言ったが拒否された」
「振られたんだ!」
 いかにも愉快そうに遠慮なく言われ、颯斗は眉間にシワを寄せた。
 事実だが改めて言われると不愉快だ。
「彼女は遠慮深いんだ」
「単にうざがられただけなんじゃない?」
 そんな訳あるかと言いたいところだが、実際その通りなのが残念だ。
「一目惚れして忘れられなくてチャンスを伺っていましたって、はっきり言ったの?」
「その言い方はやめてくれ」
「なんで? 素性を調査する程執着しているんだから間違ってないじゃないか」
 朔朗が呆れたように言う。
「そんなことを言える雰囲気じゃなかったんだ」
 咲良は颯斗の姿を見た瞬間、顔を曇らせた。
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