気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「ありがとうございます」
(意外と普通の車に乗ってるんだな)
 乗り込みシートベルトをしながら、咲良はそんな感想を持った。
 彼の肩書や雰囲気から、高級外車に乗っているかと思っていたのに。そんな気持ちを見透かすように、運転先に座った颯斗が苦笑いした。
「平凡だと思っただろ?」
「い、いえ、そういう訳では。でもイメージとは違いますね」
「仕事で使うこともあるからな。目立ちすぎない方が便利なんだ」
「なるほど」
 車は地下駐車場を出て、大通りを走る。
「ところでどこに向かってるんですか?」
「知りあいの店。そろそろ着く」
「この辺りにレストランなんてありましたっけ?」
「そこだ」
 颯斗の視線の先にあるのは、生垣に囲われた邸宅だった。
 個人宅にしては大きすぎるが、旅館や飲食店にも見えない。しかし颯斗は断りなく車を敷地内に進め広い玄関前で駐車し、エンジンを切った。
「ここはどういう場所なんですか?」
 車を降りてぐるりと周囲を伺ったが、看板のようなものはなく、やはり飲食店を経営しているようには見えない。
「口コミだけでやってる店だ。一日五組限定で、予約を取るには、常連客から紹介して貰う必要がある。他の客や時間を気にする必要がないから、込み入った話をするときに丁度いいんだ」
「そういう店があるというのは聞いたことがありますけど、実際来るのは初めてです」
 咲良は驚きながらきょろきょろと周りを観察する。
 都心のオフィス街からそう離れていない場所だと言うのに、三百坪以上ありそうな広い敷地。庭は日本庭園の様式に整えられている。ここで食事をしながら寛いだら、都会の喧騒を忘れさせてくれそうだ。
(さすが、ワタライワークスのCEOだわ)
 行きつけの店のレベルが違う。副社長を務めていた金洞副社長ですら、こんな特殊な店の常連にはなっていなかったはずだ。
(もしなっていたら、何度も自慢して来たはずだもの)
 金洞副社長はそういったことを黙っていられず、自慢するタイプだった。
 颯斗が慣れた様子で、旅館のような広い玄関の扉を引くと、着物姿の店員が出迎えてくれた。
「渡会様、ようこそいらっしゃいました」
 やはり颯斗は常連のようで、店員と親し気に言葉を交わし、部屋に案内して貰う際も、真っ直ぐ前を見て周囲の景色などには関心がないようだ。
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