気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
(瀬那さんとは険悪だったけど、羽菜さんとは親しいということ?)
「それなら妹と渡会家との関係については聞いていると思うのでざっくりした説明にしますね。私の父が頭取を務める五葉銀行は以前から渡会リゾートと取引をしてきました。その関係で個人間の交流もそれなりにあったんです。父は颯斗さんが独立起業したのを知ると、五葉銀行傘下のベンチャーキャピタル社を通じて出資しました。颯斗さんの才能を評価していたため将来性を見込んだんです」
 羽菜の語る内容はなかなか複雑で理解するのがなかなか難しい。
(ベンチャーキャピタルって、ベンチャー企業とか未上場の小企業に出資して、成長後のリターンを利益にする会社のことよね?)
 咲良は経営学は専門外だが、金洞副社長のお供で傘下したセミナーなどで、そのような話を聞いた覚えがある。
 出資金には返済義務がない為、ベンチャーキャピタル社からの出資を望む企業家は多いのだとか。ただ新たに立ち上がる企業数に対し、出資家は限られているので、誰でも恩恵を受けられる訳ではない。存在を知って貰う為に注目を集める必要があるが、簡単ではないそうだ。
 颯斗は元々面識があり能力を認められていたから、早々に支援を受けることが出きたのだろう。
「颯斗さんは父の申し出を受けて契約をしました。その時の条件のひとつが私をワタライワークスに入社させることだったんです。当時のワタライワークスは人件費を抑えていて新たな社員は必要としていませんでした。だから決まった役目がなかったんですよ」
「でも、どうしてそんな条件を?」
「ベンチャーキャピタル社が出資先に自社の社員を出向させることはよくあるんです。見張りのような意味もありますね。将来性がなかったら撤退もあるので」
「なるほど」
(つまり羽菜さんは、スパイのような存在ということ?)
 咲良のそんな疑問を察したのか、羽菜が笑顔になった。
「心配しないでください。見張りと言うのは名目で、私にそんな気はないので」
「でもお父様に監視を期待されているんですよね?」
「そうですけど、全て言いなりになる必要もないので。私は颯斗さんを尊敬しているので彼の味方です」
 断言する羽菜にほっとする反面、胸の奥が騒めいた。
(羽菜さんはもしかして颯斗さんのことを?)
 そんな考えが浮かび、すぐに打ち消す。
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