気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 彼女は仕事ぶりを尊敬していると言っただけなのに、曲解して動揺するなんてどうかしている。颯斗に対しても羽菜に対しても失礼だ。
「颯斗さんの奥さんになった咲良さんのことも応援しますね」
 羽菜の目には純粋な好意しか見られない。つまらない考えを一瞬でも持ってしまった自分が情けなくなった。
「あの、驚きましたよね。颯斗さんと私が結婚したなんて」
 彼女はバーでの様子を間近で見て、咲良と颯斗が出会って間もないという事実を知っている。普通では考えられない程のスピード婚だ。何か事情があると考えてもおかしくない。
 ところが羽菜は迷わず首を横に振る。
「結婚までのスピードには驚きましたけど、結婚自体はそれ程驚きませんでした。あのときの颯斗さん、完全に咲良さんを狙っている顔していたし」
「え?」
 羽菜の言葉に心臓がどくんと跳ねる。
(颯斗さんが私のことを?……いえ、そんなわけないよね。きっと葉菜さんの勘違)
 一瞬期待して弾んだ心を、戒める。
「だから私ひとりで先に帰ったんですよ」
「そうなんですか? 私はてっきり服が汚れてしまったからだと」
「服は咲良さんが綺麗にしてくれたから気にしてませんでした。でも私が居たら颯斗さんが咲良さんを口説けないかなと思って気を利かせたんです。颯斗さんには呆れられましたけど」
 咲良の知らないところでそんなやり取りが有ったとは。
「……お気遣いありがとうございました」
「いえいえ。でもあのチャンスを逃さず結婚まで漕ぎ付けた颯斗さんの手腕はさすがですよね。仕事だけでなく恋愛面まで完璧だとは。もっと堅物なタイプだと思ってたんですけどね」
 羽菜はそう言いながら、クラブハウスサンドを完食し、カルボナーラを食べ始める。
 咲良も話に気を取られて手つかずになっていたパンケーキを切り口に運んだ。
(羽菜さん完全に誤解しちゃってるみたいだな)
 颯斗と咲良が恋愛結婚で結ばれた夫婦だと疑っていない。契約婚なのは他の人には秘密なので、否定する訳にはいかないが、騙しているような気まずさがある。
 羽菜と目が合うとにこりと微笑まれた。とてもいい人だ。
「あの、このパンケーキすごく美味しいです」
 お薦めされているだけあってフワフワしている。スフレといった方がいいかもしれない。
「気に入ってくれてよかった。また来ましょうね」
「はい、是非」
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