気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 思いがけない状況に咲良の思考は真っ白になる。
 心臓が張り裂けそうなくらいドクンドクンと乱れている。
 一瞬がとても長い時間に感じる。
 一体なぜ彼がこんな行動をとるのか分からない。
 気付けばそっと腕が離され解放された。
 未だ騒めく胸を抑えながら見上げる。彼は切なそうな目で咲良を見つめていた。
 しばらくすると、颯斗は優しく咲良の髪に触れた。
「お休み。ゆっくり休んで」
「は、はい……颯斗さんも」
 咲良は動揺したままベッドに入る。
(今のはなんだったの?)
 なぜ彼は咲良を抱きしめたのか。いくら考えても彼の気持までは分からない。
 結婚して初めてのスキンシップに、咲良はなかなか寝付けなかった。 

 ◇◇
 
 隣のベッドから静かな寝息が聞こえて来ると、颯斗はそっと自分のベッドから抜け出した。
 今夜はなかなか眠れそうにない。
 寝室を出てリビングに移動する。
 ソファに座りミネラルウォーターを一気に呑むと、火照っていた体が段々と鎮まっていく。
「危なかったな……」
 颯斗は溜息と共に呟いた。
 契約結婚という形で夫婦になってから、気持を抑えて来たが、先ほどの咲良の目を見ていたら、理性が保てなくなった。
 彼女から羽菜に嫉妬したと言われ、内心浮かれていたというのもある。
 だから、自分を見つめる咲良の目に恋情を感じてしまったのだ。
 気付いたときには、彼女を腕の中に閉じ込めていた。
 そのままキスをしてベッドに押し倒してしまいたい。
 込み上げる激情をなんとか抑えて彼女を開放したけれど、ぎりぎりだった。
 二人で過ごす時間が増える程、惹かれていく。
 隠せなくなるのも時間の問題かもしれない。
 咲良との信頼関係は深まっている自信がある。
(彼女に伝えよう)
 颯斗の想いを。契約結婚というのは建前で、どうしても君を手に入れたかったのだと。
 ひとりきりのリビングで颯斗は決意を固めたのだった。
 
  ワタライワークスに入社して、瞬く間に一カ月が経過した。
 初めて使用する社内システムに苦戦したが今は大分慣れた。羽菜とも毎日接している内に親しくなり、今では大分気安くなった。
 社内で飛び交う単語は馴染みのないものばかりで、話についていけない時もあるが、秘書の仕事ではこれまでの経験をしっかり活かせる。
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