先生!見ちゃダメ!
萎みかけていた心が一瞬で光を浴びて、私は勢いよく顔を上げて千晴くんの顔を見る。
学校で見るのよりも砕けた笑顔。少し困ったように眉を下げて、でも目元は涙袋がくっきり見えるくらい優しく細めた、昔から知ってる顔。
…きっと、私しか知らない顔。
「っ、いい、の…?」
「いーよ。お菓子も用意しといてあげるから。早く取っておいで」
「っ、うん!すぐ戻ってくる!」
嬉しい。
こんなミラクル起きていいのだろうか。
不安に溢れていた心は一気に踊り、その足ですぐ隣の自宅まで猛ダッシュ。
慌てながら玄関を開けて自分の部屋へ直行する様子をお母さんが怪訝な顔で見てたけど、今はムシムシ。
千晴くんの気が変わらないうちに戻らないと…!
絨毯の上に乱雑に置いたままのカバンを掴み、念のためお菓子のゴミとかが入っていないかだけ確認して、またドタバタと階段を駆け下りる。
千晴くんの家の前に戻ったときはほんの少し息が切れかけていて、そんな私を見て千晴くんが困ったように笑った。
「花恋、もしかしてずっと走ってたの?」
「っ、うん」
「別に俺は逃げないんだから。慌てなくていいのに」
ジュース飲む?と続けて聞いてくる千晴くんに、コクリと頷くと、そのまま家の中に案内された。