【書籍&コミカライズ作品】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~【第三部完結】


 「殿下、お待たせしてしまったかしら」

 「私が待っていたかったんだ、君が気にする事はないよ。父上と母上は謁見の間ではなく、応接間で待っている。その方が君とゆっくり話せると言って」

 「そう、なの」


 私は王妃殿下もいらっしゃるという言葉をヴィルから聞いて、少し動揺してしまう。

 陛下と会う事ばかり考えていて、王妃殿下の事はすっかり頭から抜け落ちていたわ……あの事件の後、大司教が自殺し、教会が解体となってからの王妃殿下は、それはもう憑き物が落ちたかのように大人しくなったと聞いていた。


 ヴィルとの関係について彼に直接聞く事は出来ずにいるけれど、2人はどのくらい距離が縮まったのかしら。

 王妃殿下は自分の正義に従って生きてきたのでしょうけど、ヴィルは自分を殺そうとしていた母親として長年見ていた。

 
 でも事実は全く違い、自分を殺そうとしていたのは勘違いだったし、むしろヴィルに嫌われてもいいように振舞っていただけだったのだけれど、真実を知った途端「はい、そうですか」と思って仲直り出来るわけではない。


 長年築いてきた母親像を覆す事は簡単ではないし、何より幼少期の一番愛情が欲しかった時にそれを受け取れなかったというのは、ちょっとやそっとで取り返せるものではないと思うのよね。

 
 まだ小さなヴィルは傷ついたままなのだろうか。
 

 王子様の仮面をかぶってスマートにエスコートしてくれる婚約者の横顔をチラリと見ながらそんな事を考えていると、応接間の扉の前に到着していたのだった。

 
 ――コンコン――

 
 「ヴィルヘルムです」

 
 「入りなさい」


 陛下の声が室内から聞こえてきたので扉が衛兵によって開かれると、国王陛下と王妃殿下がソファにゆったりと座って寛いでいた。

 私は夫婦としての2人の日常生活を見たのが初めてだったので、驚いて目を見開いてしまう。


 前よりも距離が縮まったように寄り添って座り、いかにもおしどり夫婦といった雰囲気だった。

 王妃殿下のピリピリしたオーラは影を潜め、表情も穏やかで、相手に圧力をかけるような笑みではない、素の微笑みに変わっていたのだ。


 ヴィルの方を見るととても複雑な表情をしていて、ほんの少し寂し気でもあり、嬉しそうにも見えるような……何とも言えない気持ちになった。


 民の前では王太子としてほとんど表情を崩さないのに、家族を前にするとほんの少し本当の彼の気持ちが垣間見える時がある。

 そんな私の心配をよそに、ヴィルはくだけた話し方で家族の会話をし始める。
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