目と目を合わせてからはじめましょう
 二日ほど休暇をもらっていたのだが、社長に報告しなければならない事もあり、会社へ行く事にした。

 社長室の前まで行くと、中から話声が聞こえる。先約がいたようだ。出直そうと向き変えたのだが。

 「勝手を言って申し訳ありません。以前からお話のあった、ロサンゼルスへの派遣研修を受けようと思います」

 岸川の声だ。ロサンゼルスの話は、社長からも聞いていた。

 「そうか。岸川君なら英語も堪能だし、私も自信を持って推薦できるよ」

 「ありがとうございます」


 「向こうとも調整して、日程を連絡する。最低でも2年は戻れない」

 「はい。承知してます。社長にはこちらに拾って頂き、感謝してます。しっかり学んで、戻ってきた際には、お役に立ちたいと思います」

 「ああ。期待している」


 「あの……」

 「どうした?」

 「大変、不躾な事をお聞きしてもよろしでしょうか?」

 「ああ、構わんよ」


 「なぜ…… 湯之原氏のお孫さんと太一さんを合わせるために、あのような仕事を受けたのですか?先日、湯之原が話しているのを聞いて、沖縄への警護と結びつきました」

 「あのようなとは?」

 「不要な警護です。警護の仕事を舐めているとしか思えません」


 「そうだな…… 確かに警護を私用に使ったかもしれんな」

 「そんな…… 咲夜さんが素敵な女性であることは認めます。もっと他に方法があったのではないですか? それに…… どうして、社長は私を選んでくれなかったのですか。私はずっと、太一のそばに居たのに。私に何が不足していたのですか?」


 「岸川君。君ば、素晴らしい人だ、不足などない。太一と咲夜さんの事は、確かにきっかけを作ったことは認めるよ。だが、どんなに我々に仕組んでも、決めるのは二人だ。それだけだよ」

 「それだけ? それだけが、大きく運命を変えてしまいました。仕方ない事だと分ってます。私じゃなかったのだと分ってます。ただ、どうしようもなくて…… すみません」

 「私の息子である太一を、こんなに思ってくれて、ありがとう」

 社長の声は、穏やかで、決して表面的なものではない気がした。
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