目と目を合わせてからはじめましょう
 ビーチに戻ると、さっきのビーチハウスの男が近づいてきた。

 「十五分オーバーです」

 さっきは、営業スマイル万歳だったのに、明らかに不服そうな顔をしている。

 「部屋につけておいてくれ」

 雨宮が無愛想に答えた。
 ビーチハウスの男は、返事もせずに、伝票らしきものを差し出した。雨宮がサインをすると、男はチラッと私の方を見て戻って行った。


 「おお。どうだった咲夜?」

 ビーチでじいちゃんが、笑顔で待っていた。

 「すごく。綺麗だった。ウミガメも見られたのよ」

 「そりゃ良かったじゃないか。雨宮君もお疲れ様。ジェットバイクまで乗れるとは、流石だな」

 「いえ。必要に駆られてとったまでです」

 丁寧に頭を下げた雨宮の顔は、また無表情なSPの顔に戻っていた。

 「海から悪い奴が来る事だってあるしな。不審な事はなかったかな?」

 「ええ。特に、気になることはありません」

 じいちゃん、本気で沖の警備を申し付けたの? 真面目に答える雨宮も凄いけど。

 雨宮は、近くにいたホテルのガードマンらしき人に、お礼を言っているようだった。


 「ねえ咲夜ちゃん、ボディーマッサージ予約してあるからいきましょう」

 「そうだだっの? やったぁ!」


 「それじやあ、ワシは部屋に戻るよ」

 じいちゃんが立ち上がった。雨宮は、じいちゃんの斜め後ろに付く。周りがどんな動きをしても、表情一つ変えない雨宮。ジェットバイクでの雨宮とはまるで別人だ。

 こんな大柄な男でも、自分のことをたいしたことなないと思うなんて。なんだか雨宮の背中が、今までより近く感じた。
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