目と目を合わせてからはじめましょう
 雨宮太一

 「どうして沖縄なんですか?」

 目の前で、呑気にコーヒーを飲んでる社長に向かって言った。

 「いや、急に旅行に行くことになったらしくて、不安で仕方ないんだろ?」

 「それにしたって、警護の必要ありますか?」

 「まあ、そう言うなって。丁度うちも仕事少ない時期だし、経営的にもさぁ」

 社長に、そこを突かれると言葉が出ない。

 「それに、来月からは政治界の大きな仕事が立て込んでるだろ? 今のうちに楽しんでおくぐらいのつもりで行ってこい」

 「そんな…… それでも一応仕事ですから……」


 明日から、湯ノ原氏の沖縄旅行の警護に就けと言われたのは数分前。いい加減にも程がある。社長と言い合ってても仕方ないので、机に戻り日程表等の確認と準備を始めた。

 いくらなんでも、あの孫娘まで一緒という事はないだろう……

 と、思っていたのだが……


 空港でも目立つ集団の後ろに立っていると、手を振って近づいてくるワンピース姿があった。
 やっぱり……
 このメンバーを見た時に、嫌な予感はしていた。


 何事もなく旅行が終わってくれればいいと、何故か祈ってしまった。
 だが、祈りは空しく、俺は黒のスーツから緑のシャツに着替えさせられた。


 そして、俺の全てを変えてしまう旅行が始まった。


 見るつもりは無いが、周辺を確認するのが仕事が故に、彼女の姿も目に入ってしまう。楽しいはずの旅行に俺が着いて来てしまって、嫌な出来事を思い出させているのでは無いだろうかと思うと申し訳なくなる。

 急に彼女が椅子に座った。多分、急な暑さに参ったのだろう。

 俺は、目の前の出店でマンゴージュースを買うと彼女に手渡した。


 彼女になるべく近づかないようにする約束をした。せっかくの旅行を楽しんでほしいと思ったからだ……

 だが、世の中、約束通りにはいかない……
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