目と目を合わせてからはじめましょう
 こんな風に海を見るのは久しぶりだ。

 あまりに大きな海に飲み込まれてしまいそうな不安にんる。どんな時でも誰かを守るため、強くありたいと思うのに、この海相手じゃ何も出来ない。そんな気持ちになってくる。


 「海って大きいよな。すごく綺麗で癒されるけど、こうして海の上にいると、少し不安になる。自分なんてたいした事ないって」

 気づけばそんな言葉を口にしていた。


 「本当に、人間て小さい。だから、たいしたことできなくていいのかも……」

 背中から聞こえた彼女の声に我に返った。

 出来なくてもいい、そんな言葉を今まで聞いたことがあっただろうか? いや、俺自信がそんな言葉を知らないのかもしれない。

 「ふふっ。普通は、よくやってるとか、嘘でも励ますんじゃないのか?」

 「ええー。だって、こんな青い大きな海見ていたら、私なんてちっぽけだなって……海を左右するような大きな事、出来るわけないじゃないですか?」

 「まあ、そうだな」

 なんだか俺が背負っているものが、ふっと軽くなる感覚があった。


 「でも、どんな型でも、どんな色をしていても、どんな思いがあっても、それはそれでいいんじゃないかって思えてきちゃって……  この海にしてみたらたいしたこじゃないでしょ?」

 「自分を否定しなくていいってことか?」

 どんな型でも、どんな色でもいい、彼女を見てりいるとその言葉がしっくりとくる。


 「そんな気がして来ません? こんなに大きな海見てると、何かにとらわれずに、もっと自由でいいのかも…… それに、失敗しても許してくれそうだもの」

 「面白い人だな?」

 今の俺の素直な気持ちだ。もちろんいい意味でだ。


 「えっ? 私がですか?」

 「そうだ、他に誰かいるのか? 海の上だぞ。 そろそろ戻るか? 大分時間オーバーしたな」

 「そうなんですか? 延長代払ってくださいね」

 「俺がか?」

 「はい。私は、ただ乗って来ただけです」

 だが、彼女には言っておきたい事があある。


 「なあ。言っておくが、少し無防備だぞ。こんな所まで、インストラクターだからって男と来たりしちゃダメだ。さっきの奴、明らかにスケベ根性出してたぞ」

 俺がどれだけハラハラしたかは、勿論言わないが。

 「ええ。そうでしたか? だって、お仕事でしょ?」

 「あてになるもんか。何かしら企んでる怪しい奴多いんだからな」

 純粋と言えばそれまでだが、世間知らずだろ。


 「はーい。怪しい人の背中に掴まってるる私はどうすればいいんですかね?」

 「うるさい。しっかり捕まってろ」

 「ひぁーーーー」

 ジェットバイクのスピードを上げると、彼女の悲鳴が耳元に響いた。
 笑っている事がバレないようにエンジン音を上げた。


 ビーチに戻ると、彼女は叔母さんとエステに行くという。ビーチにいるような事はないだろうと思うと、俺はほっと胸を撫で下ろしたした。
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