目と目を合わせてからはじめましょう
 部屋に戻ったと同時に、じいさんのスマホが鳴った。

 「そうか、わかった、これから向かうよ」

 部屋で休むのだと安堵したのに、今度は、どこへ行くんだ。

 「雨宮君、ちょっと出かける」

 「はい、どちらへ」

 「あっちの方かな」


 じいさんの向かった先は、エステと書かれた看板の前だった。

 「ええ!!」

 じいさんの驚いた声が聞こえる。

 「どうされましたか?」

 「友梨佳さんが、ネイルだかをしたいから、マッサージを交代してくれと言われたんだが、このマッサージは血圧が高い人は危険らしいんだよ。困ったなあ。ああ、雨宮君代わりにやってきてくれんか?」

 「はい? 無理をおっしゃらないで下さい」

 本当に勘弁して欲しい。

 「何でだね? ああ、そうか勤務中か?」

 「その通りです」

 「なら、これから休憩時間じゃ」

 「はあ、何をおっしゃって……」

 「大丈夫よ、また主人に頼んで、ガードマン呼んでもらうから」

 ネイル中なのか、テーブルに手を差し出したまま顔だけこちらに向けた叔母さんが、そんな事を言い出した。


 「しかし」

 「よし、休憩時間じゃ。これは、お世話になっているお礼だよ。それに、これも経験じゃ。何か任務の役に立つかもしれんだろ」

 そんな訳ないだろ。


 そりゃ俺だって、たまにはマッサージしたいと思う。体が基本の仕事なんだから。そんな油断が、俺を地獄へと突き落とす事になったのだ。
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