目と目を合わせてからはじめましょう
 夕食はホテルの沖縄料理のレストランが予約されていた。

 スマホの音に、画面を見る。社長からだ。

 『はい』
 『太一か?』
 『ええ』
 『湯之原さんの警護だが、これで終了になった』
 『はっ? 何を言っているんですか? こんな場所で終了なんて、何んなんですか?』
 『まあな。安全だって思えたようだから、いいじゃないか?』
 『それにしたって勝手にもほどがある。なら、すぐに帰りますから!」
 『ああ、その辺は好きにしろ。有給もあるし気にするな。お疲れさん」


 通話は、切れてしまった。
 一体……

 今回の任務は全く腑に落ちない。


 「雨宮君、ちょっといいかね」

 「はい」

 返事をすると、じいさんの元へ向かった。


 「社長から、連絡があったと思うが、これで警護を終了にさせてもらうよ」

 「そうらしいですね。お世話になりました。私はこれで失礼させて頂きます」


 俺だって、このまま警護を続ける必要などない事はわかっている。常識的な挨拶をしたまでだ。

 頭を下げると、この場を去ろうとした。

 「おいおい、勘違いしないでくれ。君のおかげで、私は安心してこの旅を楽しむことが出来たのだよ。君が必要なくなったわけではないよ」

 「私は、何もしていません。それに、そもそも、警護が必要であったようには思えません。終了で良いと私も思いますので、気をお使いにならないで下さい」

 「帰るのかね?」

 「はい、任務は終了しましたので、ここに滞在する意味もありませんので」

 「そうかあー残念だな…… 私は、君に帰って欲しくて、警護を終了したわけじゃない、君と旅行がしたくなったんだよ」


 呆れて言葉が出ないとはこのことだろう。

 「…… 。それはどういう? 私はあくまでも仕事でここに来ているのです」

 この後に及んで、一緒に旅行などどういうつもりなのか? 


 「年寄りの我儘に付き合わされておると思っておるのだろ? 我儘ついでに、もう一泊付き合ってくれないか。どうせ、最終便には間に合わんよ」

 じいさんがニヤリと笑ったのを、俺は見逃さなかった。片手を上げて腕時計を見る。
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