婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
思わず呟くと夏樹くんがなおも真剣な声色で話す。

「好きな人には、怖い思いをしてほしくないんです。小春さんは安全な場所に避難するだけだと思ってください。 同居だけで、恋人のフリの効果は期待できます」

…怖い思い。そりゃ、怖いに決まってる。一人暮らしのマンションに帰って、もしもその空き巣に遭遇してしまったら。そんなこと、考えたくもない。私は常に慎重で、自分が小心者の自覚はある。近所で空き巣なんてあった日には、しばらく恐怖に脅えながら買い物に行くのも躊躇われるくらいだ。

「小春さん。 あなたを放っておきたくない。俺に守らせて」

やめて。私の弱いところに、つけこもうとしないで。私はあなたに何もしてあげられないのに、わがままに自分の安心のために縋りたくなってしまうから。私は夏樹くんの先輩でいないといけないのに。

強引で、でも最後まで私に委ねようとする頼もしい言葉に、絆されてしまう。




――ああ、私ってなんて甲斐性なしなの…。

「とりあえず荷物は最小限に抑えて、必要なものや足りないものは後で買い足すか、週末にもう一度取りに来ましょう」

「…はい」

定時を少し過ぎて退勤した私は、夏樹くんとマンションに帰ってきていた。正直、彼の存在は思っていたよりも心強かった。歩き慣れた道のはずなのに、昼間見た記事のことが忘れられなくてまるで知らない街みたいに思えた。

夏樹くんと無事マンションに着くと、手早く荷物をまとめていく。窓の施錠も確認し、玄関もちゃんと閉めた。オートロックで私の部屋は7階だから余程のことがなければ大丈夫だとは思うけど、対策として遠隔操作で家の電気の点灯ができるものを取り付ける。
これは夏樹くんのアドバイスだ。抜かりない。
< 14 / 130 >

この作品をシェア

pagetop