婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
結局、夏樹くんの提案を断りきれなかった私は、今日から夏樹くんの彼女として同居することになる。私は身の安全のため、夏樹くんは許嫁を断る口実のため。
だけど、どう考えても私の方が甘えてしまっている。それじゃダメだ。お世話になるなら、ただ甘い蜜を吸うだけじゃ納得できない。
彼が私に求めていること。そんなのひとつしかない。でもそれに答える気持ちは、用意できないから。

「夏樹くん。 私、彼女頑張るから。誰が見ても、もうすぐ結婚しそうな仲良しカップルに見えるように、頑張るからね!」

身の安全を確保してもらって、夏樹くんの気持ちを知っていながら彼と一日の大半を一緒に過ごすのだ。

「…小春さん。 それなら、俺のこと好きになってくれた方が早いかも」
「うっ、それはその、えーっとですね…」

私が言葉に詰まったのを見て、夏樹くんはふっと笑う。

「冗談です、すみません。 でも、いつかこの関係を本物にしてみせますから」

いじわるだ。私を困らせて、楽しんでるよ彼。
ああ、困る。可愛い後輩との距離感が、おかしくなり始めている。
でもそうさせたのは、その道を選んだのは、私なのだ。


夏樹くんが車を出してくれて、彼の運転姿を新鮮に思う間もなく私は驚いていた。
だって、私を乗せて車はべりが丘のノースエリア、高級住宅街の門を抜けるのだから。そりゃ、うちなんかよりセキュリティがしっかりしていて安全なわけだ。しかもその中心核、いちばん存在感のある区画の大きな邸宅の前で車は止まった。

「え、夏樹くん、ここに1人で住んでるの?」
「まあ、はい。これからは小春さんがいるからひとりじゃないですけど…」
「な、夏樹くんて、やっぱりとんでもないお家の生まれとかじゃ…」
「ないです。親戚が金持ちで、ここはその、別荘みたいなもので。管理とかいろいろ俺が住むことで任されてて、それだけです。何度も言ってますけど、俺は普通の家の生まれっす」

嘘、なんだろうなぁ。っす、とか言っちゃってるから。んー、でも本人が頑なに話そうとしないし、そういうことにしておくべきか。どうか、恋人のフリをする相手が、よもや北条家の御曹司…なんてことはありませんように。
まあ、それは置いといて。
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