婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「小春さん!!」

翔くんが男を引き渡して連行されて、同時に、聞き慣れた声にひどく安心した。体から力が抜けてその場に座り込みそうになるのを受け止めたのは翔くんだ。

「大丈夫ですか!? 怪我は、!」
「大丈夫。ちょっと、安心したら気が抜けちゃっただけだよ」

優しく抱きしめられて、さっき引っ張られた腕だってもう痛くない。彼に縋ってしまうのは不可抗力だ。体に力が入らないのを、支えてくれているから。なんて、誰にするでもなく誤魔化しきれないほどの安心感に対する言い訳。

「ほんとに来てくれたね、翔くん」
「っ、当たり前じゃないですか。 俺が小春さんを守るって…言ったのに、遅くなってすみません。やっぱりあなたのそばにいるべきだった、」

ぎゅうっと強くて優しい抱擁の中で首を振る。あなたが守るのは私だけじゃない。責任感があって頼もしい翔くんのことを、みんなが頼りにしているのを知ったから。

「皆を守るために走っていく翔くんの背中、かっこよかったよ。 それに、ちゃんと守ってくれたじゃん。翔くんなら助けてくれるって思ったら、あの人にも立ち向かえたんだよ」
「立ち向かったんですか!?」
「えっ、んー、時間稼ぎのつもりで…」
「そんな無茶…! あーもう、小春さん! ほんっとに、無事で良かった…」

声が少し震えていて、私はぽんぽんと彼の背を撫でた。私じゃなくて翔くんが泣きそうなの、逆に落ち着いてくるよ…。

「ねぇ、ご夫婦は?」
「警備課の方で保護しました。 今回の件に関して、ご夫婦と小春さんには警備課から後日改めて謝罪があると思います」
「えぇ? 謝罪ってなんで…」
「万全の警備のはずが、侵入を許したことで招いた事件ですから。すべてこちらの不徳の致すところです」

その信条はどうやら曲げられなさそうだ。

「あんまり堅苦しいのはやめてね?」
「…善処します」

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