余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「ちょっ! レイさん、待って」

「あ? 何だよ」

 待ったをかけたのは護衛見習いのミラだ。彼女はレイの耳元で何事か囁く。小声でこそあるものの、かなり熱を入れて喋っているようだ。

「……何だそりゃ」

「いーから!」

 レイの眉間に皺が寄る。だが、反論は続かない。彼は呆れながらも納得したようだ。その場に留まり深く溜息をつく。ミラはほっとしたように胸を撫で下ろした。

 そんな二人を他所にエレノアは腹部への治療を終える。ほっと息をついてユーリに目を向けた。

「次は右膝――」

「いつもなら勝てる。……負けないんだ」

 不意にユーリが語り出した。ぽつりぽつりと力ない声で。エレノアは言葉を呑んで耳を傾ける。

「ただ、今日はその、……たまたま調子が悪かったんだ。……だから、だから明日になればきっと……」

 顔はエレノアがいない方へ。言わずもがな表情を隠しているのだろう。もしかしたら泣いているのかもしれない。

「すごいわ。イゴール様も相当お強いでしょうに」

「……信じてないだろ」

「信じるわ。団長様から貴方の武勇伝をたくさん聞きましたから」

「……あっそ」

 頭部への治療を終えたエレノアはそっとユーリの頭を撫でた。彼の土塗れの肩が大きく震える。

「人の心を言葉で、行動で動かしていく。言うのは簡単だけれど、誰しもが出来ることではないわ」

「……よく、分かんねえ」

(そう。貴方は思うままに行動しているだけ。打算なんてないのね)

 やわらかな紅髪はエレノアの手によく馴染んだ。ユーリもまた同じ思いであるのか、拒絶の声を上げることはなかった。

(名残惜しい。……心からそう思うわ)

 エレノアは微苦笑を浮かべつつユーリの頭から手を離した。
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