余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「えっ……」

 ユーリが思わずといった具合に顔を向けてきた。迷子の子供のような心細げな目をして。

(10歳、何ですものね)

 エレノアは開きかけた扉をそっと閉じた。扉の先から光が差し込んでくる。期待しているのだ。彼ならば、ユーリならばと夢を見ている。

 彼はとても真っ直ぐな人だからきっと気付くことが出来る。同じ失敗を繰り返さずに済む。安心して愛を育めるのではないかと。

(面の皮の厚いこと。見苦しいったらないわね)

 エレノアは意を決して栗色の瞳を見つめる。

「団長様から伺いました。貴方の下積み時代のことを。三年間、誰からも相手にされず見稽古で腕を磨いたそうですね」

 ユーリの顎に力が籠る。エレノアの目には涙を堪えているように見えた。

(やはり苦しかったのね。貴方は苦しみながらも励み続けてきた。そして、これからもそう)

「素晴らしい胆力です。わたくしは感銘を受けました」

「かんめい?」

「すごいな! かっこいいな! って、思ったってことよ」

「ふーん?」

 ユーリの色白の頬が緩む。擽ったそうだ。エレノアは微笑まし気に思いながら続ける。

「ユーリ、貴方はきっとこれからもその剣と勇気で道を切り開いていくのでしょうね。ご活躍を耳にする日を楽しみにしていますよ」

 我ながら無責任だと思う。ユーリの家庭での立ち位置は? 経済状況は? 彼が担うべきとされているその責任の重さは? 何一つ知らぬまま背中を押すようなことを言ってしまったのだから。

(でも、それでも静観を貫くことが出来なかった。完全なる私情。擁護の余地もないわ。……神よ、どうぞ何なりと罰をお与えください)

 エレノアはどこか開き直ったような表情でユーリを見た。彼は予想に反して神妙な面持ちに。何かを深く考えている、悩んでいるとも取れるような表情を浮かべていた。

(余計なお世話だったようね。ごめんなさいね、ユーリ)

 緑色の魔法陣が消える。治療完了の合図だ。エレノアはユーリを座らせて無言のまま立ち上がる。
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