余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
『なっ、何を――』

「案ずるな。大賢者と同じ場所に飛ばしただけのこと。危害は加えていない」

『フォーサイス邸に? ……っ!!?』

 不意に暗くなった。ここは屋内か。石造りの部屋の中であるようだ。かなり広い。少なく見積もっても500人は収容出来そうだ。

(ここが城? ……城? っ!?) 

 心臓が早鐘を打つ。

 城に住まう高位なる存在。

 今更になって思い至る。

 この悪魔の正体は――。

「やれやれ、少々はしゃぎ過ぎたな」

 悪魔は翼をしまうと、ドカッと音を立てて腰かけた。

()()にドヤされる。……面倒だ」

 豪奢(ごうしゃ)な椅子だ。玉座と形容しても過言ではない程に金銀宝石等で装飾がなされている。

『まっ、()()……? 貴方は魔王、なの……?』

 問いかける声は激しく揺れた。対する悪魔は嘲り顔だ。

「当たらずと(いえど)も遠からずといったところか。吾輩はこの世界の統治を()()()()存在だ」

『任された……?』

「この世界は謂わば『属国』のような位置づけとなる。つまりは、()()()()()()()()()()ということだ」

『そんな……』

「その者は吾輩の父にあたる存在で、その名は………む? …………はて? 人語では何と発音すれば良いのだろうな………?」

 悪魔はぶつぶつと不可解な単語を口にし出した。何か(ひら)いたような顔をしたが、結局しっくりとはこなかったようだ。終いには諦めて「くだらん」と投げ出してしまう。

『……ふざけているの?』

 安心感からか悪魔はどこかお茶らけているように見えた。エレノアからすれば腹立たしい限りだ。

 何せこの悪魔はつい今ほど、エレノアの護衛騎士やユーリの両親、村の人々といった罪なき者達の命を奪ったばかりであるのだ。

 悪びれもしないこの態度は彼らの命を軽んじていると言わざるを得ない。

「そうだな。……うむ。吾輩は浮かれているのだろうな」

『最低よ』

「褒め言葉として受け取っておくとしよう」

 悪魔は言いながら自身の膝に魔法をかけ始めた。彼の手元から紫色の魔法陣が展開される。

「良い機会だ。今日より吾輩は『魔王』となろう。国主ではないが、その類の頂点にあるという要件は満たしている。不足はないだろう。くっくっくっ……む……」

 魔王の表情が曇り始める。傷の治りが悪いようだ。

(回復魔法は不得手であるのかしら? あるいはレイが負わせた傷が深いのか……)

 いずれにしろ好都合だ。魔王が(もたら)す被害は甚大であるから。何かしらな形で足止めが叶うのならそれに越したことはない。

「やれやれ」

 魔王は深く溜息をつくと渋々といった具合に指を鳴らした。
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